若者に慕われる本間さん
現在、新宿大ガード下で寝泊まりしている路上生活者は、本間さんを含めて2人のみ。そのほかにここを訪れるのは、いわゆる”歌舞伎町の住民”のほか、NPO団体や新宿区の職員になるが、そのたびにいろいろなモノを差し入れしてくれるという。
「そりゃ大ガード下は、サラリーマンから歌舞伎町に出勤する人までいろんな人がつかう“通勤路”になってるから、私の存在は広く知られてるの。だからパチンコの余り玉で交換したお菓子をくれたり、ノンデリバリー(=配達中止)になった食べ物をくれる出前サービスのお兄さんもいる。
宴会シーズンになると、余ったお寿司や肉を居酒屋のスタッフがもってきて『もしよかったらこれいりますか? 捨てるよりはマシなんで』と言ってくることもあるよ。おかげさまで、ここに住んでからはあっち(=新宿中央公園)の炊き出しには行ったことないし、西口のホームレスとは直接的な関わりもほとんどないの」
そう語る本間さんの元には、この日も多くの少年少女が訪れてきては「ママー、元気してる?」「ママー、今日○○(人の名前)見た?」などと楽しげに話しかけてくる。そのなかにいた金髪の少女は現役のトー横キッズで、「広場(=トー横)に行く前のヒマつぶしのような感覚でここに来てる。
いろんな人と話せるから楽しい」と言う。小麦色に日焼けした19歳の少年も元トー横キッズで、現在は現場仕事で汗を流す日々を送っているというが、「たまにここに来ると懐かしい気持ちになるんです」と頬をゆるませる。
「ここには僕のような元トー横キッズの子が集まることもあって、同窓会のような気分になるんですよね。トー横に通っていたころは、リーダーの指示で広場の掃除や炊き出しを手伝ったりもしましたけど、まあお酒のイッキ飲みをしたりOD(=過剰摂取)したりと遊んでました。
でも、そろそろちゃんとしなきゃなという思いが強くなって、数ヶ月前にトー横を抜けたんです。今は現場系の仕事で会社の寮にも入って早朝から働いてますけど、『やっぱりトー横に戻りたいな~』って思うときもあります(笑)」
そのいっぽうで、本間さんの元にはトー横キッズだけではなく大人も訪れる。およそ1年前からここに通っているという30代女性は、缶チューハイを飲みながら「私はママに救われたんです」と話す。
「もともと私は、酒とラムネしか口にしないような生活を送っていて、しょっちゅう市販薬のODもしてました。でも、ママと知り合って界隈(=トー横界隈)に顔を出すようになってからは、わざわざ約束しなくてもそこに行けば誰かしらいるし、界隈民に悩みも聞いてもらえる。
ほかの人が作った料理も苦手だったんですけど、ママの手料理ならおいしくてなんでも食べれたので、この1年間で8キロくらい太って健康になりました(笑)」