トー横キッズに料理を振る舞う大ガード下の主

時刻は夕方の6時。このくらいの時間になると、新宿大ガード下は仕事帰りと思しきスーツ姿のサラリーマンが行き交い、人通りもピークを迎える。

だが、ガード下に集まる界隈民たちはお構いなし。缶チューハイを片手に会話に夢中になっている。そんななか、本間さんがクーラーボックスの中から取り出したのは、きゅうりの浅漬けとレバーの煮付けだ。

彼女が「ほら、食べて食べて」と呼びかけると、その場にいた界隈民の女性やトー横キッズの少女は「いただきまーす」と言って箸でつまみ出す。すぐに「おいしい」「ママのご飯サイコー」「酒が進むわ」などの声が飛び交い、本間さんも満足気な表情を浮かべる。

新宿大ガード下で路上生活を送る本間弥和さん
新宿大ガード下で路上生活を送る本間弥和さん
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記者もお言葉に甘えてひと口いただくが、なかなか濃い口でおいしい。これを肴に缶チューハイを飲みながら界隈民たちと雑談を交わしているうちに、取材で訪れたとはいえ、この空間に居心地のよさを感じるようになってきた。

本間さんは、ふだんから界隈民のために料理を作っていて、カセットコンロのほか、調理器具もひと通り揃えているというが、月に数回は行政に撤去を余儀なくされるんだとか。

「大ガード下は月に2回だけ清掃があるんだけど、そのときはすべての荷物を持ってここから追い出されるの。それできれいになった通りを清掃業者がパシャッと写真を撮ったら終わるから、そうしたら戻るという感じかな。

もちろんここに段ボールを敷いて寝泊まりするのはダメってわかってるけど、じゃあホームレスにどこに行けって言うのよ。役所側も事情をわかっているからここから追い出そうにも追い出せないのが現状なんじゃないかな」

新宿大ガード下には数十年前から路上生活者が住んでおり、本間さん自身も、知人に紹介されて“移住”を決意したという。それまでは生活保護を受けながら大田区のアパートに住んでいたというが、彼女は自らの生い立ちについてこう語る。