「技術屋である以上、技術、知識なくして稼げないでしょ」

——これまでの取材から、歯科医が保険適用の入れ歯を作れる技工士を探し回っているのが現状だと聞きました。保険で入れ歯を作ってもらえない、“入れ歯難民”になっている患者さんがどんどん増えている、と。“入れ歯難民”が増えている理由はどこにあるのでしょうか。

若い世代の技工士が入れ歯作りをやりたがらないのが、一番の原因ですね。それに年配世代の方々が引退した時期から、実際に入れ歯を作れる技工士が深刻なほど少なくなってしまったんですよ。

——入れ歯を作りたがらないというのは、手作業で大変だし、報酬も安いからということですか。

これは感覚的な問題なんですよね。しかし、入れ歯の製作は現状、一つひとつ手仕事で、機械(デジタル)でつくるものじゃないので、ある人にとっては効率のいい仕事でも、ある人にとっては効率の悪い仕事になる。

私は現役の歯科技工士ですし、仕事もしています。「技術屋である以上、技術、知識なくして稼げないでしょ」という信念もあるし、当然収入にも差は出ると思っています。差が出るから勉強するわけで。だから「技術屋にとって棚ぼたはない」と思っているんですよね。

入れ歯を作成する歯科技工士
入れ歯を作成する歯科技工士

——入れ歯問題とは別に、技工士の「技術料」としての取り分が、国が定めた技工士7割、歯科医3割という基準があるにもかかわらず、ダンピング競争のせいで守られていないという声を、取材でも多く耳にしました。

たしかに7対3というのは大臣告示で出ているんですが、市場経済の括りの中で「歯科医院と交渉してください」ということになっているんです。しかもその割合は「概ね」ですから、交渉次第になっているわけです。

難しいのは、我々は患者さんと直接対峙しているわけではない、というところ。薬の場合は、医薬分業なのでお医者さんが処方箋を書いて、患者さんはそれを持ってどこの薬局に行ってもいいんです。我々は歯科医院と交渉するわけですが、そこに存在する「差」は技術力、知識力ということになる。