「ぼくだけパンク少年みたいな格好してるから、ぜったいに不採用かな」
あとこれは「漫画家あるある」なんですけど、小林さんていうアシスタントの方がいて、その人の絵がめちゃくちゃ光ってるんですよ。もちろん、本当に光っているワケじゃなくて、あまりにもうまいから発光してるように見えるんです。「これが、プロの絵なんだ」って思って。
だって、こっちはね、それまで世界でいちばん絵がうまいと思って生きてきたのに、「あれ? ぼくよりうまい人がこんなところにいるのか」って思ってね。ちょっと自信をなくしましたよ。ま、当たり前なんですけどね。
その後、ぼくが谷村プロで働くようになって、描けない絵があると小林さんに甘えてこっそり描いてもらったりしてました。小林さんに、描き網とか荒々しい斜線を教えてもらったのは、今でも自分の漫画で活用しているので、大変感謝しています。
面接が終わって自宅に帰ったあとに、「あの人達に比べると絵も上手じゃないし、ぼくだけパンク少年みたいな格好してるから、ぜったいに不採用かな」って落ち込んでたんですよ。次はどこに面接に行こうかなって。すると、電話がすぐに掛かってきて、なんと合格だったんですよ。
あれは、どういう基準なんだろう? それから、何人か新しい人が入ってきたけど、ぼくが見た基準でいうと、漫画がずっと好きで、自分で同人誌を出すような人は、あんまり残れない。どちらかというと、人間的にタフな人の方が重宝される。
実際、どう考えても、ヤンキーあがりっていうか、族あがりみたいな人もいましたけど、その人もデビューしたはずですよ。絵のうまいヘタっていうのは、半年や1年ぐらいやっていると、自然と上達するんです。
あんまり大きな声では言えませんが、ぼくとほとんど同期で、今や日本を代表するヤンキー漫画を描いて、「ばっこちゃん」と呼ばれていた人も、一時期ここでアシスタントをしていましたが、最初はそんなに絵がうまくなかった。でも、見るみるうちに上手になって、独自の世界を表現する漫画家になっちゃったんですから、この世界もわかんないもんですよ。
文/近藤令