漫画家・谷村ひとしとは「電光石火の出会い」

それで、少しでも具体的にイメージが湧くように書くと……風格はあるんだけど、「この人は、この漫画家先生のところで何十年と雇われているアシスタントの方かな」っていう、うだつの上がらない匂いもしたワケです。あ、こんなこと書いちゃ、それこそ叱られちゃうか(笑)。でも、そういう「これぞ、漫画家先生!」っていう感じではなかった。

それで、「面接に来たのですが、先生はいらっしゃいますか?」って聞いたら、「俺だよ」って。

それで、「あーそうですか、よろしくお願いします」って頭をペコって下げたら、先生も同時に下げて、ゴツンとぶつかってね。

電光石火の出会いっていうの? 相性だけは最初からよかったんだね。

それで、面接に入ったんですけど、昔よくテレビに出ていた演出家の和田勉そっくりの
ガハハ系っていうか、豪快な感じの人でね。声がめちゃくちゃ大きいし、迫力もあるし。ちょっとした日常会話なのに、耳にキンキン響く感じでね。

後にパチンコに関する作品を多く執筆する谷村ひとし氏
後にパチンコに関する作品を多く執筆する谷村ひとし氏

一応、面接ということなんで、履歴書をそっとテーブルに置いて……次に、渾身の力で描いた「学校のデッサン」も履歴書の上に重ねて……。先生は、どんな感想を言うのかと思ったら、チラリと作品に目を落として、「学校なの?」って、一言。それは、良い評価なのかダメなのか。何か理由を聞かれるのかと思ったら、もう次の話題に移って、がなり立てるようにしゃべりまくってる。全然、ぼくの作品には興味がない様子なんですよ。

それからすぐに、「漫画って、こうやって描いているんだよ。ちょっと、見る?」っていうことで、仕事場を案内してもらったんです。

夢にまで見たと言えばウソになりますが、まったく知らない世界に足を踏み入れる感じにドキドキしていましたね。雑然と並ぶ原稿用紙とか、ちょっとくたびれた感じのアシスタントの方々が4~5人いて。なんか妙に静かで、ペンを走らせる音だけが、カリカリ、カリカリって響いてね。

いかにも、漫画家さんたちの仕事場っていう雰囲気でした。昼食は近所の蕎麦屋とかピザ屋の出前で、息抜きに出かけることもないと言っていました。