「国境」を意識しない世代

デジタル時代の消費者、特にZ世代は「国境」をさほど意識しない。

グミ市場は、国産だけでなく、「ハリボー」や「地球グミ」といったヨーロッパ産、さらに最近では韓国産が同じ棚に並び、 それぞれが好みのグミを手にしている。

元々、グミの持ち味は多様性かもしれない。〝元祖〟「ハリボー」の「ゴールドベア」は、長さ約2センチのクマの形。弾力感ある歯ごたえで、かむうちにフルーツの香りが広がる。イギリスでは定番のクマの形にはあきたらず、7色のミミズやへそ型といったユニークなグミの受けが良い。

一方、韓国では動物をかたどった食品は好まれない。イスラム教国では、原料に豚ゼラチンを使うことは許されず、牛のゼラチンでグミをつくる。

ネット時代は、情報が拡散される。その情報は世代間で断絶されているわけではなく、誰でもSNSを開けば情報を目にすることができる。

例えば、SNSではAI(人工知能)がアルゴリズムによって、好みに合ったものや情報を薦めてくれる。若くなくても、Xでトレンドを追っているうちに流行に関する情報がたくさん届く。Z世代は年長の世代と比べると人口が少なく、現状は購買力も高いわけではないが、購買力がある上の世代にZ世代の発信力が影響を与えるサイクルは無視できない。

グミ、爆売れの秘密は「情報拡散力」にあり。1袋500円以上でも売れる、デジタル時代の消費者を捉えた背景_3

今後の社会を担う世代

また、Z世代は今後の社会や消費を担う存在となっていくため、Z世代を意識した製品・サービス開発の取り組みが相次いでいる。

グミではないが、カンロは2022年2月、Z世代を主要顧客に想定した飴「エモーショナルキャンディ」を期間限定で発売した。若年層の飴離れに危機感を持つ同社が、PLAZAを展開するスタイリングライフ・ホールディングス プラザスタイル カンパニーと組んだ。

3種類の味があり、それぞれ「風」「恋」「夜」というテーマを設定した。パッケージ裏面には製品コンセプトに沿った詩を書き込んだ。「風」と「恋」は詩の内容に合わせて味が変化し、飴をなめている時間を楽しめるようにした。Z世代にとっては「味が変わらない」などの飴に対するイメージがあり、コンセプトを明確にした商品で新たな価値を提供しようとした。

Z世代のニーズを捉えた製品開発は、新たな視点を持つことにもつながる。カンロでは、こうした取り組みにより、製品のアイデアを練る際に柔軟性が生まれると期待する。

グミ、爆売れの秘密は「情報拡散力」にあり。1袋500円以上でも売れる、デジタル時代の消費者を捉えた背景_4
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「好き嫌い」より「共感したい」

「SHIBUYA109lab.」所長の長田さんは「Z世代は『好き嫌い』よりも『共感したい』のほうが強い気がする。すごく好きな『推し』がいるとか、自分の主観がしっかり作用している部分もあるが、そうではない部分のほうが多い。自分の主観が強烈に働かないところに関しては、みんなが『いい』って言っているものに『わかる、わかる』と共感したい。そういう感じではないか」と、Z世代への価値観や嗜好を分析する。

毎週のように新商品が発売されるグミの市場は、企業と消費者が、まさに一緒に盛り上げていくパートナー同士という関係性が構築されている。「いかに『好き』を捉えて、それに応える商品を提供するか」ではなく、「いかに『共感』の空気を生むか」が、これからの生活者の消費意欲をくすぐるポイントになっている。

文/白鳥和生 画像/shutterstock

『グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)
白鳥和生
グミがわかればヒットの法則がわかる
2024年4月26日
1,870円(税込)
1.3 x 13 x 18.8 cm
ISBN: 978-4833425247
日本経済再生のヒントは、「グミ」にある!?  コンビニの棚を席巻する大ヒットの謎に迫る

飲食料品の世界で起きた、四半世紀ぶりの〝大逆転劇〟。 2021年、グミがチューインガムの市場規模を上回った。 グミは日本で発売されて40年ほどの歴史しかないが、いまや老若男女問わず愛されるお菓子に成長した。

グミとは何者なのか。グミには5つの顔がある。
① 「幸せ感」につながる小腹満たし・気分転換ニーズを満たす
② 「コスパやタイパ」につながる代替ニーズを満たす
③「楽しさ」につながるバラエティーの豊かさ
④「期待感」が高まる相次ぐ新商品の登場
⑤「つながっていることを実感」できるコミュニケーションツール

様々な顔を持つグミの魅力に惹きつけられたファンたちが集う「日本グミ協会」という団体が生まれたり、「グミ文化祭」というイベントが開催されたりしていることにも注目だ。

人口減少が進む日本で、グミがヒットしたひみつとは?  元・日経新聞記者で、あらゆる小売業の動向を長年追いかけてきた著者が、マーケティングの観点からわかりやすくひもとく。
【目次】 
はじめに
◆第1章 グミの歴史と人気 ・グミの起源はドイツ ・日本は「明治」が先陣切る ・2021年にグミ市場がガム市場を逆転!  ・コロナ禍が後押しした市場拡大 ・小売り側の反応 ・物価高騰のなかでも支持を集めるグミ ・コラム かむことと健康の関係
◆第2章 消費者の声から読み取る「グミ」とは ・グミは誰が食べているか?  ・人口が減少するニッポンで、なぜグミは成長しているのか ・「タイパ」と「代替需要」  ・Z世代とグミ ・消費者が持つ「グミ」のイメージ ・情緒的価値が大切なベネフィット ・コンセプトが商品の命 ・グループインタビューから見えてきた消費者インサイト ・グミを形づくる5つの要素 ・コラム マーケティングコンセプトハウスの山口博史社長の分析
◆第3章 メーカー各社の戦略 ・グミの持つ多様性と技術 ・明治 ・カンロ ・UHA味覚糖 ・ハリボージャパン(ハリボー日本法人)  ・コラム グミ市場を支える地方メーカーと菓子卸
◆第4章 企業と生活者による「共創」  ・ヒットの法則とグミ人気 ・ファンがブランドを育てる ・ファンマーケティング ・勝手連がグミを応援 ・オタクとは違う「推し活」  ・コラム 「グミ文化」を目指す(日本グミ協会の武者慶佑名誉会長の寄稿) 
おわりに
参考文献
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