一般的に会社が社員を解雇した場合でも、退職金が支払われないわけではない。退職金規定に記載のある勤続年数などの要件を満たせば基本的には退職金が支給される。
退職金が支払われなくなるのは、日本の裁判においては非常に悪質な行為があった場合、正確には「勤続の功を抹消ないし減殺(げんさい)してしまうほどの著しく正義に反する」場合に限定されている。
では、どれほど悪質な行為をはたらけば、退職金が全く支給されなくなってしまうのだろうか?
2023年に、高校教師が女子生徒にわいせつ行為をしたことを理由に、退職金1914万円を受け取ることができなかった実際の事件(山形県・県教委事件:山形地裁 R5.11.7)を通じて、退職金の性質を解説する。
事件の当事者は2名、加害者である男性の高校教師は勤続34年で、当時は野球部の顧問だった(以下「X先生」)。わいせつ被害にあった女子生徒は野球部のマネージャーで当時高校3年生。
事件は、甲子園山形県大会の前日に起きた。
わいせつ行為の「具体的態様」
判決に書かれていた、わいせつ行為の具体的態様は以下のとおりである。
判決文より引用
当該の女子生徒は、被害を受けた後X先生から「一緒にいたい」と言われたが拒否し部屋を出た。〉
その後、ほかの野球部員に迷惑をかけたくないとの思いから、県大会が終わるまで高校や両親には打ち明けていなかった。だが県大会終了後に高校と両親に相談し、ことが明るみに出たのである。
女子生徒は高校から事情を聞かれたときに、「いま冷静に考えても気持ち悪いと思います。奥さんも息子さんも娘さんもいるのに最低だと思います。謝罪はしてもらわなくてもいいです」と述べている。