イチローのプロ入り第1号ホームラン

でも、いざプロ入りしてみると壁に当たってしまう。プロのスピードについていけない。自分よりもパワーのある選手に格の違いを見せつけられる。

そして自分のスタイルを変えていくんです。これからもプロで生きていこうとした時に、ホームランでなかったら何で生きていくのか。守備を完璧にしたり、バントや走塁を練習したり、自分にできることからモノにしていく。

おそらく、その過程で選手は脇役に徹することを覚悟するんだと思います。本当は主役でやりたかったけれども、仕方なしに諦めるんでしょうね。

だからこそイチローは立派なんです。一軍でレギュラーを張る今となっても、自分のスタイルを変えずにやっている。挫折することなく、あくまで主役として〝振り切る〞ことに徹している。だから魅力的なんです。

ところで、マスコミの人たちは何かと、イチローのプロ入り第1号ホームランが僕から放ったものだということで、ドラマ性を見いだしたがってるようです。

でも、そんなことは本人たちにとっては、どうでもいいことなんです。あの頃、僕は肩の調子が悪くて、自分のことで精一杯だった。だから正直言って、イチロー君とのいくつかの勝負はよく覚えていないんです。

おそらく彼も、過去のゲームのことをいつまでも覚えていたりしないと思いますよ。これから何本も打つホームランのうちの1本が、たまたま僕からだったというだけのこと。

僕だって、清原さんとの初対決は三振でしたけど、そんなことはどうでもいいことだと思っています。清原さんのほうだって、もう忘れてると思いますよ。意識の中にもないでしょう。

だから、イチロー君の将来性を考えれば、僕から奪ったホームランを思い出にして生きるようなバッターじゃないと思うんです。

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まぁ、マスコミに聞かれれば〝野茂さんのフォークは凄かった〞とか、多少のリップサービスはするでしょうけど、それはあくまで社交辞令ですよ。

「そんなイチローと、再び対戦してみたいですか?」─こんな質問も何回か受けました。

おそらくイチローはメジャーで通用するか、という意味合いも含まれているのだと思うのですが、それは何とも言えません。

メジャーに来さえすれば、通用する可能性は十分にあると思いますが、本人が来なければしょうがない。それよりも今年は、日本で野球をしているわけですから、またプロ野球を沸かせてほしいと思いますね。

写真/shutterstock

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