お前らはいつからそんな偉くなったんだ!
――本の中で、坂本龍一さんによる印象的な発言を紹介されていますよね。「YMOでブレイクする以前、まだ無名だった坂本龍一は、『どこぞの牛丼が美味いかどうかを話題にしていた奴らがいつの間にか六本木のステーキ屋の話をしている』と言っていたものだ」と。これも、その時代の音楽シーンの変遷をうまく表しているように感じました。
そうですね。もともと彼は、僕が1971年に開店した最初のロフトの客だったんですよ。その店はもともとジャズ・スナックとして世田谷の烏山でオープンしたんだけど、当初店のレコードはたった数十枚しかなかったんです。それで開店してしまったんだから無謀ですよね(笑)。
そのうちに見かねた客が私物を持ち寄るようになって、ロックやフォークを含めたさまざまな音楽を聴かせる店になったんです。
坂本は芸大の学生でクラシックの人間だったわけだけど、他の客が持ち寄ったロックやフォークのレコードを通じてそういう音楽にも目覚めていったんですよ。近くの音大に通っている女子学生のレポートを、一杯の水割りをギャラに代筆してあげたりしてね(笑)。その後、西荻窪と荻窪にもロフトを展開していくんですが、彼はしょっちゅうライブを観に来ていました。そこでいろんなミュージシャンと繋がっていったんですね。
――1973年開店の西荻窪ロフトには、フォーク系のミュージシャンが多く出演していたそうですね。
高田渡、遠藤賢司、友部正人、南正人、シバ、久保田麻琴、中山ラビ……他たくさん。オープニングには山下洋輔さんに出てもらったり、ジャズのライブもやっていました。ミュージシャンたちも、自由に演れる場所ができたっていうだけで喜んでくれましたね。
――こじんまりしたスペースだったようですね。
控室もないし、トイレもお客さんと共用でね。照明も裸電球を銀紙でくるむだけ(笑)。それが今の時代はねえ……出演者専用のトイレがないとミュージシャンは怒るでしょ。あの時代はそんなことで誰も怒らない。お前らいつからそんな偉くなったんだと言いたいですよ(笑)。