出発地点のバス停まで行くのに一苦労

さて、そんなわけで実に安易な思い付きで取り組んだ企画であったが、実際に撮影を行うにあたって、まず最初に困ったのが、自宅から出発地点までの移動手段であった。成東のような単線区間の小さな駅では、駅までの交通手段は自家用車を利用し、駅前の駐車場に車を停めて鉄道を利用するのが一般的である。

しかしそれでは面白みがないというか、田舎ではそれが普通であったとしても、公共交通機関を日常的に使用して生活する都市部在住者にとってリアリティーのある話ではなくなってしまう。そこで、あえて成東駅までの移動に路線バスを利用しようと、最寄りのバス停留所の時刻表を調べてみると、その停留所に、朝の一本目の成東駅行のバスが通過するのは6時28分であった。

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写真はイメージです

ところが困ったことに、朝のその時間に、我が家とスタート地点であるその分譲地を直接結ぶ交通手段が存在しない。

僕の自宅からその分譲地までは13㎞ほどもあり、とてもではないが歩いて行けるような距離ではないので、最初は成東駅前のコインパーキングに自家用車を停め、駅からタクシーに乗って分譲地に行き、そこからバスに乗車して撮影を開始しようと考えていたのだが、成東を営業エリアにするタクシー会社で、朝の6時台に営業している会社が存在しないのである。

周辺にはコインパーキングも一切存在せず、月極駐車場すらない。つまり東京へ向かっている間、車を停めておける場所がないのである。

仕方ないので、あまり褒められるような手段ではないが、分譲地の近隣にある墓地の駐車スペースに車を停めさせてもらい、そこから徒歩で出発地点の分譲地に向かい、撮影を開始することになった。

撮影開始は午前6時10分で、バス停までは徒歩で10分弱ほどかかる。バスの本数は決して多くないので、利用者は大体みな同じ時間に停留所に向かうはずなのだが、周囲には他に歩いている人もいなかった。停留所に着くと、すでに一人の高校生がバス停で待機していたが、結局その停留所から乗車したのはその高校生と、僕と妻の3名だけで、バスの車内にも乗客は数えるほどしかいない。通勤客らしい乗客は皆無である。ただ、僕は以前成田市で路線バスの運転手の仕事に就いていたことがあるので、地方の路線バスのこうした現状については特に驚くようなことではなかった。