営業を続けるA級小倉

2年前の昭和館では、『彼女は夢で踊る』を上映しました。広島の薬研堀に実在したストリップ「広島第一劇場」を舞台にしたラブストーリーです。

広島第一劇場は、中国地方では最後まで続けていたストリップ劇場で、2021年5月20日に、惜しまれつつ閉館しました。

この映画をうちでかけるとき、「ほろ酔いシネマカフェ」を企画しています。映画に出演した現役ストリッパーの矢沢ようこさんと時川英之監督にトークをお願いしました。

さらには「A級小倉ツアー」と題して、九州唯一のストリップ劇場「A級小倉劇場」に、わたしが引率して女性限定20名で3回、矢沢さんの出演するショーを観に行ったのです。

わたしたち女性グループの来店に、館主の木村恵子さんは感激してくれました。

木村さんは踊り子たちの母親のような存在なのですが、新型コロナの時期に体調をくずして、およそ40年の歴史に幕をおろそうと決めていたそうです。

いろいろと迷われたのではないでしょうか。閉館を撤回しました。うちが焼けたときには、お見舞いをくださいました。

リリー・フランキー「懐古的な想いではなく、文化という、人々の未来の為に」家族経営の老舗映画館「昭和館」が火災を乗り越え復活する日_2
イメージ写真です

A級小倉劇場は、いまも営業を続けています。

4月1日。昭和館PRESENTSのイベントを、小倉城内の松本清張記念館でおこないました。

「桜の宴」です。

上映作品は、NHKドラマの『最後の自画像』。向田邦子脚本で、主演はいしだあゆみ。清張さんがボケ老人役を熱演しています。

さらに清張作品の朗読、古賀厚志館長のオカリナ演奏と、「揚子江」の豚まん、ビールかソフトドリンク、記念館の入場料など、すべてあわせて2千円。これも満員御礼でした。

桜の舞い散る城内で、熱々の豚まんを食べながら、幻想的な夜を過ごしています。

小倉は、清張さんのふるさと。

軍医として小倉に滞在した森鷗外を描いた『或る「小倉日記」伝』で、芥川賞を受賞したのが43歳。当時としては遅いデビューでした。そこから大作家になって、精力的に書き続けたのです。1992年に82歳で亡くなっています。

父もイベントにやってきました。向田邦子もいしだあゆみも大好きなのですが、もちろん、清張さんも尊敬しています。

清張作品では、なんといっても『砂の器』が人気です。それは別格として、父が忘れられないのは『黒地の絵』という短編小説で、昭和25(1950)年の米軍黒人兵集団脱走事件を描いています。

小倉の祇園祭を翌日に控えた夜。祇園太鼓が鳴り響いているとき、米軍の「ジョウノ・キャンプ」に駐留していた総勢250人の兵士たちの一部が脱走して、近くの民家で略奪や暴行を働きました。

消防団の祖父は「外に出ないでください」と、地域に呼びかけました。ものすごい緊迫感だったそうです。

当時はGHQの統制下で、事件の新聞報道はなく、およそ2日後に脱走兵たちは朝鮮戦争の最前線に送られました。

この闇に葬られた真相に、清張さんが光を当てたのが、その8年後のこと。

小説『黒地の絵』の映画化を、清張さんは強く希望していました。松竹や東宝、黒澤明や熊井啓などの監督も動いたのですが、いまだに実現されていません。