休館か、閉館か。

健さんの言葉には、続きがあります。

「夢を見ているだけではどうにもならない現実問題。どうぞ、日々生かされている感謝を忘れずに、自分に噓のない充実した時間を過ごされて下さい。ご健闘を祈念しております」

感激しました。昭和館を守ろうと決意しました。

健さんの映画を、ずっと見てほしい。

費用が高くて購入をためらっていたDCPのデジタル上映機器を、2台購入しました。35ミリのアナログ映写機も、過去の名作を上映するために残しました。

2014年に亡くなられたとき、日本でたった1館、うちだけが健さんの主演映画をかけることができたのです。『新幹線大爆破』のアナログのフィルムが、昭和館に届いていたので……。

瓦礫の山を探しました。あの手紙に、わたしは救われたのです。

どこかにあるはずだ。ほんの切れ端でもいい。どこかにあってほしいと祈りながら。見つかりません。

ファンの方々に申し訳ない。健さんに申し訳ない。

35ミリの映写機が出てきました。巨大な鉄の残骸ですが、これがあったから、健さんの映画を上映できたのです。

瓦礫の近くに立っていると、小倉のまちの方々が声をかけてくださいます。涙ながらに、一緒に悲しんでくださいます。

「あのネオンだけは、残したほうがいい」二度と光ることがないネオンを気遣ったリリー・フランキーと館主を救った高倉健さんの手紙〈北九州市・昭和館〉_3
北九州市
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休館か、閉館か。

心は揺れています。再建は無理だろうと思うのですが、閉館を決断することもできない。まちの人たちが昭和館を必要としてくれるのであれば、できることを考えたい。

それだけでした。


写真/shutterstock

#1 昭和館が焼け落ちた日
#3 リリー・フランキーさんの言葉

映画館を再生します。 小倉昭和館、火災から復活までの477日(文藝春秋)
樋口智巳
「あのネオンだけは、残したほうがいい」二度と光ることがないネオンを気遣ったリリー・フランキーと館主を救った高倉健さんの手紙〈北九州市・昭和館〉_4
2023/11/22
1,320円
168ページ
ISBN:978-4163917801
2023年12月19日、ついにグランドオープン!あの火災から496日、小倉昭和館が完全復活。「北九州のニュー・シネマ・パラダイス」と話題に。

昨年の夏。北九州の旦過市場の火災で、福岡市最古の映画館は、創業83年を目前にして焼け落ちた。「うちはもうダメ…」高額な映写機やスクリーンや座席も、宮大工のつくった神棚も、たくさんの映画人のサインも、宝物だった高倉健の手紙も、すべてが燃えてしまった。

小倉昭和館の三代目館主、樋口智巳は、瓦礫の前で立ち尽くした。それでも、あきらめなかった。リリー・フランキー、光石研、仲代達矢、秋吉久美子、片桐はいり、笑福亭鶴瓶など、たくさんの映画人に支えられて、樋口館主は誓うようになった。まちの人たちのよろこぶ顔を見たい。みんなの居場所を守りたい。「映画の街・北九州」で、映画館の復活という夢を見たい……。

すべてが瓦礫になった映画館が、2023年12月に「再生」するまで。完全ドキュメント。
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