界隈を父と共に楽しそうに歩く母の姿

震える手で何枚か現場の写真を撮り、やむなく空港に向かった。機内でもまだ、物件は残っているのだろうかと、その事ばかり考えていた。

夕方、東京に戻るやさっそくマンション販売の窓口に電話を入れたところ、募集は始まったばかりだという。金額は第一弾より少し割高だが、許容範囲だ。

丁寧な口調の青年営業さんが、購入可能な部屋をいくつか教えてくれた。私のように商店街マンション第一弾を買えなかった人が、どんどん申し込みを入れているらしい。聞けば眺めの良い南向きの角部屋に空きが残っているという。

80代両親の家じまいと人生整理「本当は商店街のそばで暮らしたい」母の一言から最後は住みたい町に暮らす_3
すべての画像を見る

申し込む場合はまず申込金の10万円を支払ってくださいとのこと。当然ながら一晩だけ待って欲しいと頼んだ。

くどいようだが、親は買うとも引っ越すとも言っていない。けれど今回はなぜか、流れが変わるような気がした。建設予定地を見たとき、この界隈を父と共に楽しそうに歩く母の姿が頭をよぎったのだ。

まずは母と話さなくてはと、頭を整理した。

最後は住みたい町に暮らす 80代両親の家じまいと人生整理
井形 慶子
80代両親の家じまいと人生整理「本当は商店街のそばで暮らしたい」母の一言から最後は住みたい町に暮らす_4
2024年2月26日発売
1,870円(税込)
四六判/256ページ
ISBN:978-4-08-781749-2
人生の大きな変化は、何がきっかけになるかわからない。
「本当は商店街のそばで暮らしたい」
母の一言から小さなマンションに出会った。

実家売却、遺言書作り、家財道具を手放し
親子で目指した、新たな暮らし方とは?
感動の日々を描くエッセイ。

『年34日だけの洋品店』に続く50代からの生き方を綴る第二弾!

<本文より>
この歳で住み替えて本当に良いのだろうか、心は揺れたが、
これから二人が助け合って生活するにはマンションの方がいい。
今の場所で頑張り続けるより「無理をやめる」決断をする方が
どれだけ難しく、前向きなことか。

<もくじより>
1 親の老いに気づくとき
2 最後に住みたい商店街の町
3 80代でマンションを買う
4 待ったなしの遺言書作り
5 親の思いと子の現実
6「住みたい家」と「売れる家」
7 目標6ヶ月で実家売却
8 住み替えの不安を払拭するために
9 何でも売ってみる「家じまい」
10 一週間でお片付け
11 必要最低限の整理しやすくくつろげる家
12 2LKDの新しい家
amazon 楽天ブックス honto セブンネット 紀伊国屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon