反トランプ候補までもが“信者”に

ふたつ目の理由はJ.D.ヴァンス候補自身にある。彼を一躍有名にしたのは『ヒルビリー・エレジー(Hillbilly Elegy)』という自伝的小説だ。

ヴァンス候補はオハイオ州のラストベルト(錆びついた工業地帯)であるシンシナティ郊外で育ち、苦学して名門イエール大学ロースクールを修了。その後、金融業界に進んで成功を収めた、いわゆる「勝ち組」だ。

粗暴でアルコール依存の祖父母、薬物依存で性的に放縦な母、日常に蔓延する暴力と虚無感。こうしたシンシナティ郊外での暮らしを汚点や哀れみの対象とすることなく、淡々と愛情を持って小説に描いたことで、ヴァンス氏は多くの読者、とくにリベラル層から高い支持を得た。

ところが、そのヴァンス氏がリベラル層の支持の厚い民主党でなく、トランプ系保守候補として共和党の予備選に出馬したのだ。それまでヴァンス氏は「トランプはアメリカのヒトラー」「詐欺師」「私はトランプ否定論者だ(never-Trump guy)」などと公言し、反トランプの姿勢を前面に打ち出していた。

だが、中間選挙が近づくと共和党候補として名乗りを上げ、しかもトランプ氏の推薦欲しさに「私の判断はまちがっていた」「反省し、後悔している」と、それまでとは真逆の発言をするように。果ては「私の人生で(トランプ氏は)最良の大統領であることは疑いない」とまで言い切る始末だ。

そのヴァンス氏の変わり身の早さに全米が改めてトランプ氏の推薦パワーの凄さを認識し、オハイオ州の注目度はさらに高まった。