世界の流れと逆行する日本の「開発」
そう考えていた矢先に、神宮球場やラグビー場の移転・改革に反対する市民団体などから署名運動の賛同者になってほしいという相談があった。その後には、神宮外苑再開発の認可取り消しを求める訴訟の原告に加わらないかという誘いも受けた。もちろん、答えはすべて「イエス」だ。
大資本の儲けのために、樹木を伐採し、まだ使えるスタジアムを壊すことに合理性があるのか。気候危機の時代に、東京が進むべき開発の道ではないということは、自分の頭のなかでははっきりしていた。
神宮外苑のすぐ近く、渋谷駅周辺でも近年急速な再開発が進み、その結果、どこにでもある、つまらない商業施設やオフィスビルが増殖している。そんなものを増やすだけしか脳のない資本主義は、東京の魅力を低減するだけだろう。
大企業の短期的な利潤を優先した社会の開発は、社会のウェルビーイングや持続可能性を守ることにつながらないというのは欧米では共通認識になりつつある。
ニューヨークでは、2007年以降、100万本の街路樹を植え、さらに100万本を植えようとしている。パリでも、五輪に合わせ、凱旋門やコンコルド広場で緑化が進む。気候危機の時代にヒートアイランド現象を抑制するのが一つの狙いだ。
つまり、世界の流れと逆行する形で日本だけが、目先の利益のために木々を伐採しているのだ。もちろん、その利益で潤うのはごく一部の企業といわゆる「上級国民」だけだ。
さらなる経済成長のために、日本全国でさまざまな〈コモン〉が収奪されていく未来はすぐそこまでやってきている。東京でいえば「稼げる公園」をめざして、日比谷公園や芝公園などでも樹木を伐採し、商業施設に変える計画がある。
スポーツ庁が推進するスタジアム・アリーナ改革で新設される全国各地の施設についても、公園を潰す施設について住民の反対運動が巻き起こっている。
このままでは、日本の社会全体が資本の論理にのみ込まれてしまう。だからこそ、市民の声を無視して開発計画を推し進めようとすれば、必ず強い反対の声が起きることを企業に知らしめる必要がある。
それをきっかけとして、自分たちが暮らす街のあるべき姿を一緒に考えるようになってほしい。行政に任せっぱなしではなく、自分たちの地域をどうしたいのかを考えるのが、「自治」に向けた第一歩だ。