世界で最も美しいダブルアクセル

「(ジャンプは)勢いがあった方が、後々(につながる演技が)、やりやすかったりしますね」

坂本は言う。そのジャンプは雄大で、野放図なエネルギーを放出したかのようだ。

「勢いに乗っていくと、スピードのままに跳ぶ感じで。減速がなく、常に加速で、って感じです。ブレーキを踏まずに滑れた方が、体力的にも楽だったりするんで。その滑り方がジュニアの時から身についているのかなって、自分ではそう思っています」

例えば、彼女のダブルアクセルは余裕があって世界で最も美しい。ジャンプの踏み切りは計算されたようで、跳躍は高く遠くへ、空中姿勢は軸がぶれず、安定した着氷から次の要素へ。一瞬だけ重力から解き放たれたように、雲が漂うようにふわりとする。北京五輪でもGOE(出来栄え点)は1.46点で他と大差のトップだった。

3回転+3回転の成功率も高い。ダブルアクセル+3回転トーループも大きな得点源だろう。スタミナが豊富なことによって、得点が1.1倍になる後半に得点を稼げるジャンプを持っていけるのだ。

しかし北京五輪でメダルを勝ち取れたのは、スケーティングの実力が大きい。
例えばプログラムコンポーネンツ、坂本はショート、フリー合計で優勝したアンナ・シェルバコワに次ぐ2位だった。

とりわけ、フリーのスケーティングスキルは9.46点でトップ。技量で秀で、プログラム全体の仕上がりで上回っていた。カミラ・ワリエワのジャンプ失敗が大きくクローズアップされたが、必然のメダルだったのだ。

坂本は、スケーターとして着実に力を身につけてきた。

2017-18シーズン、シニアデビューで全日本2位になり、平昌五輪に出場、6位に入賞した。2018-19シーズンはグランプリファイナルに進出して4位、全日本では優勝。右肩上がりだったが、2019-20シーズンは足首のケガに悩まされ、全日本は6位に低迷した。2020-21シーズンは徐々に調子を上げ、全日本は2位。2021-22シーズンは、日本人で唯一グランプリファイナルに進出(大会は中止)、さらに全日本で2度目の優勝を遂げ、北京五輪でメダルを勝ち取った。

誤解を恐れずに言えば、その成績のアップダウンが彼女を鍛え上げた。むしろ逆境のたび、彼女は強くなった。コロナ禍ではリンクに立てる時間も限られたが、陸でのトレーニングを増やし、力をつけたのだ。

「スケートって体で表現するもので、言葉よりも伝わりにくいと思うんです。だから目線や指先、いろんな部分でアピールできるようにして。それでもらえる手拍子はテンションが上がります。ジャンプが連続で決まると、一個前のジャンプよりも拍手が大きくなって、どんどん拍手が大きくなる。あの瞬間はたまんなく好きです!」