飛行機移動にはワイロが必須
アエロフロートで国内を移動すると、各空港では大抵イヤな経験をする。機内への荷物持ち込みの重量制限が極端に厳しいため、僕らの場合大体が重量オーバーになる。そういう時、空港の職員は必ずと言っていいほど、「タバコ持ってるか?」とワイロ(=タバコ)を要求する。
「こういう不正を誰か咎めたりチェックしたりする奴はいないのか?」と言うと、「仕方のないことだ。彼の責任ではない。これは社会のシステムが悪いのだ。エータ・ソツィアリズム」と諦めたように言うわけです。
彼の説明はこうです。空港職員の給料だけでは家計が苦しい。もともと機内持ち込みが極端に厳しい法律自体が理不尽なのだ。あの場で職員とケンカをすると正規のバカ高い(といっても日本で考えると安い)超過料金を支払ったうえ、預けた荷物が届く保証はない。
「そうすると、あのようなことが変わるきっかけとして誰が一体最初に異議を申し立てるのか?」と興奮気味に尋ねると「さあね。知らない。これが社会主義だから。彼のようにワイロをとって生きようがクソ真面目に働こうが給料は同じだからね。家族のことを考えるとワイロを要求する彼の方がエライと思うよ」。
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最後に最近経験した話を1つだけ報告しときます。こちらへ来てまもなくの頃、うちの大型冷凍庫が突然ぶっこわれてしまい、東京から持ってきた生鮮食料品がほとんどダメになってしまいました。
途方に暮れて新しいのを買おうと思ったんですが、モスクワで新品の冷凍庫を購入するのは至難のわざ。ところが、ある外貨ショップに1台だけ置いてあるのを見たという人がいて、すぐに車で駆けつけたところ何とちゃんとあるではありませんか。それで買ったのはいいんですが、こちらには品物を配達するシステムというのがないんです。だから、買ったものは全部自分で運ばなくちゃならない。大型冷凍庫なんて乗用車に入るはずもない。
困ったもんだと思案していると、そこの女店員が「隣の病院へ行け」と言う。「どうしてか?」と思ったら、病院の救急車にチップを渡せばいつでも運んでくれると言う。「みんなやっていることよ」と彼女はこともなげに言うわけです。どうも僕はそれ以来、街中で救急車と出会うたびに、あのサイレンを鳴らしながら猛スピードで走っている救急車の中身は冷蔵庫に違いないと思うようになりました。
では、お体に気をつけて。ロシアより愛をこめて。さようなら。
*1 ツィガンというのはヨーロッパ各国で通称「ジプシー」と呼称されている流浪の民と同じと考えてもいいかもしれません。彼らは寒い冬の間は南の地方に流れ、暖かくなるとモスクワなどの都市部に戻ると言われています。
写真/shutterstock