山下達郎も「OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)」発表
ピンク・フロイドの新曲発表などはあったものの、本稿執筆時点での個人的な印象としては、今回のロシアのウクライナ侵攻に対する、音楽シーンからのチャリティーや反戦メッセージはまだまだ少ない気がする。
ただ、日本では山下達郎が、6月に発売するニュー・アルバム『SOFTLY』に収録予定の新曲「OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)」のリリックビデオを先行公開し、早速話題になっている。
ただし、この作品はロシアによるウクライナ侵攻に触発されて書いた曲ではなく、それ以前に起きていたミャンマーやシリアの争乱など、今の世情全体を憂えての作品とのこと。
奇しくも発売前のタイミングでロシア軍による侵攻が起きたため、急遽、英語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語などの各国字幕版を制作し、順次公開したようだ。
本来の達郎氏は、社会的メッセージを歌うタイプのシンガー・ソングライターではなく、「音楽で皆さんの心に寄り添い、癒したり安らいでもらったりするのがミュージシャンの仕事」というポリシーを貫いてきた。
その唯一の例外といえるのが、83年の中曽根首相による「日本の不沈空母化発言(訪米時に米紙との会見で“日本列島を不沈空母のようにし、ソ連の爆撃機の侵入に巨大な防壁を築く”と語った)」に衝撃を受けて書いた「The War Song」(86年『ポケット・ミュージック』所収)だけだ。
新曲「OPPRESSION BLUES」は、それに次ぐ社会派メッセージソングで、シンプルで朴訥とした彼らしからぬサウンドメイクが、ズッシリと言葉の重みを感じさせる。
思えば今回のウクライナ侵攻に対して、世界的なアーティストがゼロから作った反戦メッセージソングが出てきていないように見えるが、おそらく今後、続々と発信されてくるだろう。
現に本稿アップの直前に、サザンオールスターズ桑田佳祐が、世界の平和と子どもたちの明るい未来を願うチャリティー・ソングを書き下ろし、佐野元春、世良公則、Char、野口五郎という同い年のシンガーたちをゲストにレコーディング。「時代遅れのRock’n’Roll Band」として緊急配信リリースした。
冒頭のピンク・フロイドやクイーン、ザ・クラッシュのカヴァーのように、すぐさま動画配信で強いメッセージを伝えられたのは、SNS時代ならでは。日本に住む我々も、自分たちに何ができるのかを真剣に考えたい。この悲惨な侵攻は、遠い国の出来事ではなく、日本のすぐ隣の国が起こしたことなのだから。