4Kデジタル完全復刻版で蘇る浪漫3部作
この度、鈴木清順生誕100年を記念して4Kデジタル完全復刻版で蘇るのが、浪漫3部作と呼ばれる『ツィゴイネルワイゼン』、『陽炎座』、『夢二』の3作品だ。
アングラ劇団・天象儀館の主宰者から『愛欲の罠』(1973)で映画プロデューサー兼俳優として打って出た荒戸源次郎と、日活解雇から10年ぶりに『悲愁物語』で映画監督に復帰した鈴木清順監督とがタッグを組んで映画製作することになったとき、はじめから『ツィゴイネルワイゼン』と『陽炎座』は2本セットの形で検討されたという。そして、比較的予算が少額で済みそうな前者を先に製作することにした。
主演には、『悲愁物語』に引き続き原田芳雄が抜擢され、結果的に原田は浪漫3部作のすべてに出演することになる。ただし、『ツィゴイネルワイゼン』はむしろ清順監督の日活の後輩監督である藤田敏八演じる大学教授がむしろ主人公で、原田芳雄はトランプでいえばジョーカーのような役回り。この立ち位置は、続く『陽炎座』、『夢二』でも一貫している。
原田芳雄は劇団俳優座を出発点に、スタジオシステムの最終期に、ロマンポルノへ移行する直前の日活で活躍した。その後は『竜馬暗殺』、『田園に死す』(共に1974)や『祭りの準備』(1975)など、アート・シアター・ギルド(ATG)配給の低予算の意欲作に多く主演し、インディペンデント映画の旗手のポジションにあった。
『ツィゴイネルワイゼン』の勝利と『陽炎座』の惨敗
荒戸源次郎プロデューサーは、東京タワーの真下に特設したドーム型のテント小屋で『ツィゴイネルワイゼン』をロードショー公開するという、製作・興行を一体化したシネマ・プラセット方式(配給はATG)で注目を集めた。独立系映画として初めて日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝くなど、この年の話題を独占する大勝利を収めている。
その勢いのまま、続いて同じチームで製作した『陽炎座』では、新派の劇作家である主人公を原田芳雄の弟分に当たる松田優作が演じ、ヒロインには前作に続き大楠道代が扮した。原田はわずかな出番ながら、再びジョーカー的な役回りを演じた。
“清順流フィルム歌舞伎”と謳われた『陽炎座』もまた、劇作家のパトロン役を演じた中村嘉葎雄が日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞するなど、高い評価を得た。それまで東映セントラル・フィルムのアクション映画で知られていた松田優作にとっては、演技派への脱皮をもたらすきっかけとなった。だが、興行的には惨敗し、シネマ・プラセットは倒産、役員でもあった清順監督も職安通いに逆戻りした。