次々と新しい研究結果が報告され、明らかになっていく
アルコールによるリスク
ほんの少し前まで、適度の飲酒には健康促進効果があるという“酒は百薬の長”説が、世界中で根強く信じられていた。
酒=害悪というのは、アルコール中毒者のような、明らかに飲み過ぎの人に限ったことだと考えるムードが濃厚だったのだ。
だが最近では、わずかな量のアルコールも体にダメージを与えるという、信ぴょう性の高い研究報告が相次ぎ、酒をめぐる世界の状況が変わりつつある。
2016年にカナダのヴィクトリア大学とオーストラリア国立薬物調査研究所の共同チームがおこなった研究では、“酒=長寿につながる万能薬”という考えが否定された。
一般的に“適度な飲酒(純アルコール量で1日1.3~24.9グラム。純アルコール量とは、20gがビール500ml缶一本、日本酒一合、酎ハイ350ml缶一本程度)”とされるレベルの人のグループと、まったく飲酒をしない人のグループとを比較した結果、平均すると飲酒による死亡率減少は起こっていないということが明らかにされたのだ。
研究者たちは、動脈硬化症や冠動脈疾患などの一部疾患では、飲酒によるリスク低下があることを認めつつ、逆に少しの飲酒でもリスクが上昇する疾患も多かったため、全体としてはアルコールの健康促進効果が打ち消されたとしている。
2017年、イギリスのオックスフォード大学とロンドン大学の共同研究チームは、対象者たちの過去30年にわたるデータを解析し、アルコール摂取量と脳の変化との関連を調査。
結果は、酒を飲む人は飲まない人と比べ、記憶や空間認知を司る脳の海馬に、明らかな萎縮が見られるというものだった。
海馬萎縮は、週30ドリンク以上の多量飲酒グループで、飲まない人の5.8倍という最高値を記録。
また、週14~21ドリンクの適量飲酒グループでも、3.4倍の萎縮リスクがあることが報告された。
2018年、イギリスのケンブリッジ大学などによる研究チームは、さまざまな事例を綿密に調査した結果、「死亡リスクを高めない飲酒量は、純アルコールに換算して週100gが上限」という見解を出し、世界五大医学雑誌の一つであるオランダの『ランセット』誌で発表した。
100グラムのアルコールとは、ビールロング缶5本、日本酒5合程度に当たる。週にそれくらい飲めれば十分だという人も多いだろうが、この研究が焦点を当てているのはあくまで“死亡リスク”であり“健康リスク”ではない。
『ランセット』誌は同年8月、追い打ちをかけるように「195の国と地域で23のリスクを検証した結果、健康への悪影響を最小化するなら、飲酒量はゼロにすべき」と結論づける記事を掲載している。