TV番組で放送禁止用語を連発、高級な机の上に嘔吐…
ブランソンは考えた。会社が変化するためには、新しいイメージが必要だ。それには強烈なパンクバンドしかない。
ピストルズが“一流”のEMIと契約していることを知ると、ブランソンはさっそく社長に伝言を残した。「もし“恥”を取り除きたいのなら、私にコンタクトしてください」と。すると先方は秘書経由で「EMIはセックス・ピストルズに関して大変満足しています」と電話で伝えてきた。
しかし、その日の午後、ピストルズはイギリス全土で大騒動を引き起こす。
TV番組『トゥデイ』で放送禁止用語を連発したのだ。翌朝ブランソンが新聞を手に取ると、それは大問題となっていた。
すると、早朝にも関わらずEMIの社長から直接個人的な電話が鳴る。「君はセックス・ピストルズとの契約に興味があると聞いているんだがね」
EMIに出向くと、ヴァージンに移籍させる合意を得たが、正式に決定するにはマネージャーのマルコム・マクラーレンの同意が必要とのことだった。紹介されると、マクラーレンは手を差しのべてブランソンにこう言った。「素晴らしい。今日の午後遅く、君のオフィスに寄るよ」
初対面の60秒以内で相手を信用するかどうか決める術を持っていたブランソンは、奇抜なマクラーレンを見た時にこの男とビジネスするかどうか訝った。
案の定、マクラーレンはオフィスに姿を見せず、翌日になっても電話すらしてこなかった。
ピストルズは、先の見えないイギリス社会で若者が内包していた不満や怒りを取り込んでいき、より過激で攻撃的になっていった。
彼らがもたらした新たなカウンターカルチャーは瞬く間に大きなムーブメントとなり、ピストルズはパンク・シーンにおける最重要バンドとなる。
1977年1月にはベースのグレンが脱退してシド・ヴィシャスが加入。3月、ピストルズはA&Mと契約。バッキンガム宮殿の前で調印式が行われた。王室や資本家に悪態をつく4人のパンクスたちは完全にマクラーレンに操られていた。
そしてこの直後、シドがやらかす。
A&Mの社長室を叩き壊し、高級な机の上に嘔吐して去って行ったのだ。A&Mはブランソンにピストルズをお払い箱にするつもりだと言ってきた。
「私らじゃ、まったく無理だ」