将棋盤を覆って号泣、母がひっぺがした

聡太が幼かったころの性格について、多くの人が挙げるのが、その負けん気の強さだ。杉本は、聡太が反則負けし、将棋盤に覆いかぶさるように号泣した場面に出くわしたことがある。

「泣く、なんてもんじゃなかったですね。吠える、というか。その状態になると、周囲がどうなぐさめても止まらない。そんなときは、いつもお母さんが来て、将棋盤からひっぺがして、どこかに連れて行っていましたね」

だからと言って、負けたらいつも泣いていたわけではないらしい。自分が「情けない」と感じた負け方をしたときに、泣いていたようだった、と杉本は推測する。

一方、杉本は、聡太の切り替えの早さも心に残っている。「あれだけ泣いたら、すぐ次の対局は勝てないものです。でも、藤井は何事もなかったかのように勝っていました」

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2010年に名古屋市であった「将棋日本シリーズこども大会(現テーブルマークこども大会)」東海大会。低学年部門に出場した聡太は、決勝戦で敗れて号泣した。大きな見落としが敗因だった。

同じ年の11月、名古屋市で催された「将棋の日」のイベントでの出来事も語り草になっている。

小学2年だった聡太は、史上最年少(当時)の21歳2カ月で名人になり、永世名人の資格も持つ谷川浩司(たにがわこうじ)に二枚落ちで指導を受けた。ところが、谷川の玉が藤井陣に入り込み、詰まなくなった。敗勢だ。谷川は好意で引き分けを提案したが、聡太は「うわああん」と泣き始めた。

近くで見ていた杉本によれば、号泣、絶叫だったという。プロの高段者相手に引き分けと判定され、泣く子はまれだろう。

杉本はそのときの聡太の様子を振り返った。「途中で勝負が終わるのが悲しくなったのでしょう」