地域政治が取り戻すべきは、教育と医療と警察
安冨 子ども問題にくわえて、市長選を経験して改めて思ったのは、教育と医療と警察という、市民地域社会にとって最も大切な三つが市長から切り離されていることです。なぜそうなっているかは明確で、国家が国民を、国家を維持するための材料だと考えている。それを揺るがさないためにこの三つを押さえているんです。私は地域政治がこの三つを取り戻す必要があると思っているんです。
泉 全く同感です。教育も、自らの生命や健康、医療というものは、本来もっと近いところにあるべきですし、犯罪も大変リスクが高いテーマですから、もっと身近でいい。アメリカの警察は市がやっていますし、教育なんて世界のほとんどが地方自治で、国家がやっているのは日本ぐらいですよ。その意味で日本は非常にイレギュラーな珍しい国家で、その結果、自分で首を絞めて、経済成長もせず少子化に歯止めがかからずという状況です。そろそろ気づいて、オーソドックスなグローバルスタンダードの政治体制とか権限分配にしたらいいんです。それを、せめて明石だけでもと思って、今できることをやってきたと、こういう経緯です。
安冨 恐らくこの三つを全部融合し、子どもが飢えたり殴られたり居場所がない状態にしないという施策に投入すれば、社会は劇的に変わるでしょうし、絶対に実現可能だと思うんです。
泉 私が市長の最後の仕事としてやったのが、全国の児童相談所で働いている職員の研修所の全国2か所目の拠点を明石につくったことです。これは国の機関ですよ。それを明石の土地を提供してつくり、オンライン配信で、全国の児童相談所の勉強の機会を提供している。私としては、意地でも、「国がせんかったら明石でやる」を通した。それこそ「誰もせんかったら自分がやる」と。日本中の子どもの命を守るのが政治家の仕事だと本気で思っていますので。
安冨 泉さんがこの本の中で書いていることは、改めて私の考えでもあったと思います。国を守るということは、国という抽象的なものを守るのではなくて、私たちの子孫、子どもたちを守ることです。それを単に口で言うのではなく、具体的にどう守っていくのか、問題を立て替えれば、やるべきことはおのずと明らかになると思う。それは明石市という非常に限定された、つまり、警察もなければ医療もなくて教育機関も奪われている、そういう市役所という機関でも十分に実現可能であった。だから、ほかの市でも可能だし、さらに国が本気で取り組めば、絶対に実現できるはず。今日のお話でその確信を得た気がします。
泉 おっしゃるとおり。私はポジティブシンキングの代表みたいな人間なので、意外と近い段階で国が変わると思っているんですよ。全然諦めていません。一番大きいのは、世の中の悲鳴です。もう耐え難いぐらい国民も負担しているのにかかわらず、子どもが死に続け、子どもが腹を減らしている状況を、さすがに多くのみんなが気づき始めている。
明石から始まった流れは、もう社会のニーズです。これが一気に広がっていって、国も方針転換をせざるを得なくなると思っています。ベルリンの壁のように変わるときは一瞬でぱっと変わる。それは幸せのようで、不幸でもあります。そこまで追い詰められているということですからね。
構成・文=宮内千和子 撮影=野辺竜馬(泉氏)坂東望未(安冨氏)