初対面の人の心をどうひらくか
1995年以来ずっと『週刊朝日』で対談連載を続けてきました(2022年10月より不定期掲載に)。さすがにそれだけ長い期間やったら、対談相手のゲスト全員とすんなり打ち解けたというわけにはいきません。
機嫌が悪くて約束の時間から45分間、控え室から出てきてくれない女優さんもいましたし、何人かの方々とは話がちっとも盛り上がらず、どんよりとした空気のまま対談終了の時刻を迎えたこともありました。
解剖学者の養老孟司先生は、私がとくに切望してお迎えしたゲストだったのですが、緊張が伝わってしまったのか、なかなか会話がうまく進みませんでした。少し落ち込んで、その日の夕食を一緒に食べた友人に、
「頭のレベルが違いすぎたかな」とこぼしたら、「『バカの壁』は突き破れなかったのね」と言われたものです。
週刊誌の対談というと、「毎週、いろんな有名人と会えて楽しいですね」「旬な人と話をするだけでお金がもらえて、うらやましいかぎり」なんて言う人たちが必ずいます。なかなか理解してもらえないのですが、毎週のペースでやるとなると、対談の準備のための時間や労力、精神的な負担は本当に大変なものでした。
会話のしやすさという面では、たとえ初対面でも文化人の方が相手だと、お互いに時代感覚もわかっているし共通言語があるので少し気がラクなのですが、いちばん気をつかうのが若い芸能人の方々がゲストの時です。
想像してみてください。私との対談収録にやってきた売れっ子芸能人の彼や彼女は、まず間違いなく「このオバさん、誰?」という気持ちでいるはずです。マネージャーに言われるがまま対談収録の場にやって来た。そうしたら、妙に態度が大きい知らないオバさんに出迎えられる。彼らが内心思うことといったら、きっとこんな感じです。
「ライターのオバさんには何人も会ったけど、このオバさん、なんでこんなにエラそうなの?」「どうしてこのオバさんと一緒に写真撮らないといけないわけ?」そういう心情が手に取るようにわかるので、まず私は彼らに会うなり、好意をわかりやすくアピールして近づくことにしています。
「まあ、かわいい!なんて顔がちっちゃいの」「テレビで見るよりも、さらにイケメンだね」本心から言っていることではあるのですが、少し過剰なぐらい伝えないと、謎のオバさんは受け入れてもらえません。
私は今まで数多くの芸能人の方々にお会いしてきたので、実は彼らの突出した外見力にもある程度の耐性は出来ています。しかし、そうした〝美女慣れ〟〝イケメンずれ〟は封印し、素朴な感動を伝えます。
その上で、もう一つ必ず伝えるのが、彼ら自身と彼らの仕事に自分が本当に興味を持っていることです。
「お芝居、劇場に観に行きました。よかったですよ」こう言うと、100人中99人、ほぼ全員の顔がパーッと明るくなります。
故三浦春馬さんだけは違っていたので、あとから思い出して、なおさら心が痛みました。三浦さんが熱演したミュージカル『キンキーブーツ』について、「初演も観ましたよ!」と伝えたのですが、全く乗って来てくれなくて妙だなあと思っていたのです。
お芝居ではなく映画でもいいのですが、「テレビで見かけた」ではなく、わざわざ足を運んだりお金を遣ったこと、彼らの仕事に本当に興味を持っていることを伝えると、心をひらいてくれる度合いが俄然違ってきます。
せっかく忙しい中、時間をつくってくれたんだから、お互いにいい時間を過ごしたい。だからめいっぱい「ファンですよ」ということを伝えるようにしています。ヘンに気取ったり出し惜しみせず、招いた側でもあり年長者の私が胸襟を開くことが礼儀だと思っています。