マンガを読めば未来に向かって突き進む主人公になりきることができた

なんとか夕方まで仕事をこなしたが、心身ともに疲れ果てていた。どんなふうにしてアパートに帰ったのかよく覚えていない。ベッドの上に座ると急に体が重くなるのを感じた。強い睡魔が襲ってきて、倒れ込むように体を横たえ眠りに落ちた。

目が覚めると23時だった。体が重たくて起き上がる気がしない。手元にあったスマホを開き、通知が来ているSNSを開いて友達の投稿をしばらく見続けた。その日のニュースをチェックして、今度はマンガアプリを開く。マンガを見ているとあっという間に時間が経ち、その日の嫌な出来事をしばらくの間忘れることができた。

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こころはマンガやアニメが大好きだった。自信をなくしていて落ち込むことがあっても、マンガの主人公になりきってその世界に入っているときは、強くなれたような気がした。

こころの父は、朝は早く出かけて夜遅く帰る生活だった。付き合いの食事会が多いらしかった。深夜に帰宅するので夜は顔を合わせないことが多かった。仕事が忙しく残業続きだと言っていた。

母は、こころと同じ看護師だった。こころが中学生になったころから夜勤に入るようになり、すれ違いが多くなった。家族で一緒に食卓を囲むことはほとんどなくなった。たまに父も母も早く帰ると、口を利かずにしんと静まり返った夕食になるか、口論が始まることが多かった。

しかし、家の中の空気が重苦しくても、マンガの中の世界は笑いで溢れていた。こころが将来への希望を持てなくても、マンガを読めば未来に向かって突き進む主人公になりきることができた。

小学生のころからマンガが好きで、小遣いでレンタルコミックを借り、弟と2人で夢中で読みまくったものだった。高校生になると、スマホアプリでマンガを読むようになった。友達に、「これ面白いよ」と勧められたマンガが読みたくなって、マンガアプリをダウンロードしてみたのがきっかけだった。

それからというもの、通学時間は必ずマンガを読み、家に帰っても夜遅くまで読んだ。駅のホームでも読みながら歩くこともあり、人にぶつかってヒヤリとすることもあった。マンガを読むだけでなく、SNSや友人とのやりとりなども増えていき、気づけば常にスマホを見ているのが日常になった。