旧車ショップ代表が明かす高騰のワケ

では、なぜここまで国産の旧車の価格が高騰しているのだろうか。久保さんはいくつかの理由をあげる。

「アメリカの『25年ルール』というクラシックカーの登録制度による要因や、映画『ワイルド・スピード』やレースゲーム『グランツーリスモ』などに登場する新旧の国産スポーツカーが人気になっていることがあります。旧車は発売から年数が経ち、現存する数が減っているという稀少性も確かにあるでしょう。また、若い頃に憧れていたクルマをリタイア後に購入するケースや、昔のクルマはデザインに特徴があってカッコいいと言って買う若い人も確かにいます。しかし、ここ数年の異常な値上がりは完全に投機目的です。古いというだけでの便乗値上げもあります」

「25年ルール」では、アメリカ国内で原則として通行できない右ハンドルのクルマが、初年度登録から25年以上経過すれば、クラシックカーとして公道を走らせることができる、と定めている。そのためこの登録制度をクリアした、たくさんの日本の旧車がアメリカに輸出されているのだ。

特に2014年に国内専用車だったスカイラインR32型(1989年発売)のハイパフォーマンスモデルGT-Rが解禁となると、爆発的な人気となり、かなりの数のGT-Rがアメリカに渡った。国内での中古車が激減し、25年ルールが適用される前には国内で100万円以下の価格で購入できたGT-Rの値段が今では1000万円を超えることも珍しくない状況になっている。

国産「ネオクラシック」に熱い視線

GT-Rに影響される形で同時代のスポーツカーの値段も上がっていった。トヨタのスープラ、マツダのRX7、ホンダの初代NSX、三菱のランサー・エボリューション、スバルのインプレッサなど、1980〜90年代にかけて製造された“ネオクラシック”と言われるクルマにも今、大きな注目が集まっているのだ。その中でも特に価格が上がっているのは、「大排気量」「マニュアル車」「限定モデル」の3つの条件に当てはまるスポーツカーだという。久保さんは語る。

「世界中の自動車メーカーが電動化にシフトし、今後はCO2をたくさん輩出するガソリン車のスポーツモデルはもう作られません。だから稀少価値があって上がると踏んで、お金持ちが旧車やネオクラシックのスポーツカーを購入しています。最近、フェラーリやポルシェなどを扱っている中古車ディーラーのラインナップにも日本の古いスポーツカーが一緒に並べられています。そういうクルマを買う富裕層が投機目的でほしがっているんです。実際、ホンダの初代NSXやスバルのインプレッサ、マツダのRX7などの限定モデルは常軌を逸した価格の上がり方です」

たった1年で1000万円→2000万円。業者も「常軌を逸した価格の上がり方」と驚く“国産旧車バブル”の裏側とは(前編)_f
ネオクラシックを代表するクルマが1989~94年に製造されたR32型スカイラインGT-R。当時、16年ぶりに登場したGT-Rだが、新車価格はシリーズの中では451万円とお手頃だった photo by Nissan
たった1年で1000万円→2000万円。業者も「常軌を逸した価格の上がり方」と驚く“国産旧車バブル”の裏側とは(前編)_g
ネオクラシックで最も高額で取引されている一台、ホンダの初代NSX-R後期型。この数年で価格が倍増し、市場では程度のいいクルマは5000万円以上で取り引きされているという photo by Honda