また『ロルフ』以外にも、「ナウシカ」というキャラクターが成立するために重要な役割を果たした存在がいる。宮﨑が『ナウシカ』のコミックス1巻に寄せたエッセイによると、一つは、バーナード・エヴスリン著の『ギリシア神話小事典』に登場するパイアキアの王女ナウシカ。ナウシカの名前もここから採られている。
もう一つは、子供の頃に読んだ『堤中納言物語』に登場する「虫愛ずる姫君」。どちらも姫として生まれながらも、優れた感受性ゆえに、変わり者として生きざるをえなかった人物である。

映画版では、こうしたナウシカのキャラクター性を守りつつも、原作に登場するトルメキア国内における権力闘争や、トルメキアと土鬼の戦争といった大きな要素をすべてカット。その代わりに、トルメキアに滅ぼされた工房都市ペジテの残党がクローズアップされ、彼らが実行する、王蟲を暴走させるという危険な作戦が物語後半の主軸として据えられた。
映画が公開されて
『風の谷のナウシカ』は、最終的に91万5000人を動員し、配給収入7億4200万円を記録するヒットとなった。またヒットしただけでなく、新聞や雑誌にも好意的な評論が掲載された。『キネマ旬報』の1984年ベストテン日本映画7位、同読者選出ベストテン日本映画1位や、優秀なアニメーションに与えられる毎日映画コンクール大藤信郎賞の受賞からもその質の高さをうかがうことができる。
なお宮﨑は当時の心境を振り返って、後に次のように語っている。
『ナウシカ』が公開してからのね、ほんっとの感想っていうのは、とにかくこれで潰れなかったっていうことでしたね。また、ものを作るチャンスがめぐってくるかもしれないなって思って、本当にほっとしたんですよ。運がよかったと思って。だから『やった!』じゃなくて、『切り抜けた』っていう実感のほうが強かったです。(『風の帰る場所』)
このような『ナウシカ』の実績が次回作『天空の城ラピュタ』の制作と、スタジオジブリのスタートへとつながっていくことになる。
責任編集/鈴木敏夫













