『風の谷のナウシカ』裏話…スタジオジブリ設立3年前の1982年、「面白いものを好きなように描いてくれ」というオーダーから生まれた漫画の完成度とは
今夜7月7日(金)に「金曜ロードショー」(日本テレビ系列)で放送される映画『風の谷のナウシカ』は、スタジオジブリが誕生するきっかけともなった作品である。ジブリ40年の歴史をプロデューサー・鈴木敏夫責任編集で振り返った最新著書『スタジオジブリ物語』より、マンガ連載から映画化した『ナウシカ』の、今だから明かせる舞台裏を紹介する。
『スタジオジブリ物語』 #1
また『ロルフ』以外にも、「ナウシカ」というキャラクターが成立するために重要な役割を果たした存在がいる。宮﨑が『ナウシカ』のコミックス1巻に寄せたエッセイによると、一つは、バーナード・エヴスリン著の『ギリシア神話小事典』に登場するパイアキアの王女ナウシカ。ナウシカの名前もここから採られている。
もう一つは、子供の頃に読んだ『堤中納言物語』に登場する「虫愛ずる姫君」。どちらも姫として生まれながらも、優れた感受性ゆえに、変わり者として生きざるをえなかった人物である。
映画版では、こうしたナウシカのキャラクター性を守りつつも、原作に登場するトルメキア国内における権力闘争や、トルメキアと土鬼の戦争といった大きな要素をすべてカット。その代わりに、トルメキアに滅ぼされた工房都市ペジテの残党がクローズアップされ、彼らが実行する、王蟲を暴走させるという危険な作戦が物語後半の主軸として据えられた。
映画が公開されて
『風の谷のナウシカ』は、最終的に91万5000人を動員し、配給収入7億4200万円を記録するヒットとなった。またヒットしただけでなく、新聞や雑誌にも好意的な評論が掲載された。『キネマ旬報』の1984年ベストテン日本映画7位、同読者選出ベストテン日本映画1位や、優秀なアニメーションに与えられる毎日映画コンクール大藤信郎賞の受賞からもその質の高さをうかがうことができる。
なお宮﨑は当時の心境を振り返って、後に次のように語っている。
『ナウシカ』が公開してからのね、ほんっとの感想っていうのは、とにかくこれで潰れなかったっていうことでしたね。また、ものを作るチャンスがめぐってくるかもしれないなって思って、本当にほっとしたんですよ。運がよかったと思って。だから『やった!』じゃなくて、『切り抜けた』っていう実感のほうが強かったです。(『風の帰る場所』)
このような『ナウシカ』の実績が次回作『天空の城ラピュタ』の制作と、スタジオジブリのスタートへとつながっていくことになる。
責任編集/鈴木敏夫
2023年6月16日発売
1,760円(税込)
新書判/544ページ
ISBN:978-4-08-721268-6
「宮さんに『大事なことは、鈴木さんが覚えておいて!』と言われた記憶をたどるとしたら、今しかない!」
【おもな内容】
『風の谷のナウシカ』がきっかけで誕生したスタジオジブリ。
長編アニメーション作品を作り続けてきたその軌跡は、波瀾万丈の連続だった——。
試行錯誤の上に生まれる企画から、スケジュールと闘う制作現場、時代を捉えた宣伝戦略、独自の経営法まで、その過程のすべてを、最新作までの27作品ごとに余すことなく網羅した。
鈴木敏夫責任編集で、今明かされる40年の物語。
【目次】
第1章 マンガ連載から映画へ。『風の谷のナウシカ』
第2章 スタジオ設立と『天空の城ラピュタ』
第3章 前代未聞の2本立て。『となりのトトロ』と『火垂るの墓』
第4章 『魔女の宅急便』のヒットと社員化
第5章 新生ジブリと『おもひでぽろぽろ』
第6章 『紅の豚』『海がきこえる』と新スタジオ建設
第7章 『平成狸合戦ぽんぽこ』と撮影部の発足
第8章 近藤喜文初監督作品『耳をすませば』とジブリ実験劇場『On Your Mark』
第9章 未曽有の大作『もののけ姫』
第10章 実験作『ホーホケキョ となりの山田くん』への挑戦
第11章 空前のヒット作『千と千尋の神隠し』 など