SDGsの17色を「循環」させると何色になるか

ちなみに日本には、そんなトイレ文明に背を向けて「糞土師」を名乗り、野糞術を追求する写真家がいます。茨城県出身の伊沢正名さんという方です。

彼が代表を務める糞土研究会「ノグソフィア」のウェブサイトによると、1970年、20歳頃のときに自然保護運動を始めた伊沢さんは、動植物の死骸や糞を分解して土に還し、新たな命に蘇らせる菌類の働きに興味を持ちました。

そして、屎尿処理場建設に反対する住民運動の身勝手さに憤りを感じ、一九七四年から「信念の野糞」を始めたといいます。処理場に反対するならトイレを使うべきではないだろう、というメッセージを込めていたのでしょう。それから25年後の1999年には、年間野糞率100パーセントを達成したというのですから、大変なことです。

あまりにも極端な例ですから、ほかに真似のできる人は(少なくとも日本のような先進国には)いないだろうと思います。でも、本気で「サステナブル」な循環を突き詰めると、こういう行動こそが正しいということになる。これに比べたら、SDGsのいう持続可能性など、まさに上っ面だけの欺瞞に満ちたキレイゴトにすぎません。

菌類の働きに魅せられた伊沢さんは、のちにキノコ写真の大家としても有名になりました。キノコは「森の掃除屋」とも呼ばれる存在。二酸化炭素を吸った植物が生成した有機物を、森の中で最後に分解して水と二酸化炭素に戻すのがキノコだと言われています。自然界の循環を仕上げる立役者のようなものでしょう。

〈うんこ色のSDGs〉「安全な水とトイレを世界中に」という目標が如何にご都合主義的な主張か。野糞術を追求する糞土師の活動からわかること_2
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地味な存在でありながら、森の生態系にとっても重要な役割を果たすキノコは、多くのアーティストの興味を引くようで、キノコをモチーフにした作品も多くあります。

私も、そんなアーティストがつくったキノコ型のブローチをひとつ持っていて、SDGs関連のイベントのときなどに、胸につけています。地味な茶色なので、17色で彩られたSDGsのバッジのように目立つことはありません。

でも、こちらのほうがよほど「循環」や「サステナブル」の意味をよく表現しているのではないかと思います。あるとき、キノコブローチとSDGsバッジを見比べていた私は、こんな一句を思いついてしまいました。

SDGs ぐるっと回せば うんこ色

SDGsの一七色は、あのバッジのように切り分けて環にすると、とてもキレイに見えます。でも実際は、それぞれの目標が個別に存在するわけではありません。

それこそ「安全な水とトイレを世界中に」と「すべての人に健康と福祉を」という目標がお互いに関連しているように、一方で相乗効果を生み、他方では逆に矛盾もはらみながら、人類の持続可能性というコンセプトを軸につながっています。

そして、物事がサステナブルであるためには、さまざまな形での「循環」という現象が欠かせません。ぐるぐると回らなければ成立しないのが、SDGsというプロジェクトです。

ならば、あのバッジ自体をぐるぐる回して循環させたほうが、SDGsの本質が表現されるのではないか。そんなイメージを持ってキノコブローチと見比べていたら、「ぐるっと回すと17色が混ざって、うんこ色になるに違いない」と思えてきたわけです。


文/酒井敏 写真/shutterstock

カオスなSDGs グルっと回せばうんこ色
酒井 敏
〈うんこ色のSDGs〉「安全な水とトイレを世界中に」という目標が如何にご都合主義的な主張か。野糞術を追求する糞土師の活動からわかること_3
2023年4月17日発売
968円(税込)
新書判/208ページ
ISBN:978-4-08-721259-4
【元京大変人講座教授、SDGsにモヤモヤする!】
近年声高に叫ばれる「SDGs」や「サステナブル」といった言葉。環境問題などの重要性を感じながらも、レジ袋有料化や紙ストローの導入、そしてSDGsバッジなどの取り組みに、モヤモヤしている人は少なくないのではないか。

「京大変人講座」を開講した著者は、大学で「SDGs担当」になったことをきっかけに、その言説や取り組みに違和感を覚えた。人間や地球環境にとって、ほんとうの「持続可能性」とは何か。名物教授が科学的観点と教育的観点からSDGsのモヤモヤを解き明かす。

【おもな内容】
プロローグ 「キレイ」なSDGs
第1章 危ういSDGs
第2章 プラゴミ問題で考える持続可能性
第3章 地球温暖化とカオス理論
第4章 無計画だからこそうまくいくスケールフリーな世界
第5章 日本社会の自由度をいかに高めるか
終章 うんこ色のSDGs
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