家庭科を男女とも学ぶようになるも、
受験科目ではない影響が…
——1989年に学習指導要領が改訂され、1993年から中学校の技術・家庭科、1994年から高校の家庭科の授業が男女共通になりました。まず、政府や学校の授業内容はどのように変わったのでしょうか。
まずは文部省(当時)からのメッセージが変わりましたね。1992年に文部省から発表された高校家庭科の指導資料には「家庭科新時代に向けて」という副題がつけられています。
この中で「家庭科教育の課題」としてまず挙げられているのは、「家庭の在り方を考え、家庭生活は男女が協力して築いていくものであることを再確認させることである」ということです。これは、1947年の家庭科の学習指導要領で掲げられていた「民主的家庭建設」に改めて立ち返ったかのようです。
さらにこの資料では「新しい家庭科教育は、男女の別なく人間が人間らしく生きるための最も基本的な学習課題を担っていることが理解される。それは人間としての生き方の学習」だと、指摘しています。この考え方は、現在にも継承されている家庭科教育の本質を言い表しているといえるでしょう。まさに、女子のみ必修の高校家庭科からのパラダイムシフトだったわけです。
ただ、この資料には男子が学ぶ家庭科、というところをちょっと気負いすぎている感じもあって……。男子ばかりがミシンがけや調理実習を行っている写真が1ページ目から何枚も掲載されていました。少しわざとらしいですよね(笑)。
この時の家庭科は3科目あって、それまでは女子のみ必修だった「家庭一般」のほかに「生活技術」「生活一般」という科目です。これらのうちどれか1科目をすべての生徒が必修で学ぶことになったのですが、どの科目にするのかは学校が決定していました。
特に「生活技術」は、他の科目と共通の内容も含まれてはいたのですが、「家庭生活と情報」「家庭生活と電気・機械」の項目が設けられたほか、「衣食住の生活管理と技術」が取り上げられるなど、「技術」を学ぶ男子生徒を意識したような内容になっていました。それでも当時としては、とにかく「家庭科」が男女ともに必修となったことのインパクトは大きかったと思います。
——新しい内容の授業を受けて、生徒たちにはどのような変化がありましたか?
すべての生徒が生活に関する同じ内容を一緒に学ぶようになったことで、徐々に性別役割分業にこだわらない意識が浸透していったのではないかと思います。
その後の2008年(中学校)、2009年(高校)の学習指導要領では、少子高齢化や持続可能な社会の構築といった社会の変化を背景として、学習内容の見直しがなされました。高校の家庭科は、その前の1999年の学習指導要領の時から2単位の「家庭基礎」という科目ができて、進学校などを中心に、この科目の履修が増加してきました。
2単位とはどういうことかというと、高校3年間のうち1年間だけ学ぶ、ということですね。家庭生活全般、それも衣食住のみならず男女共同参画、子どもや高齢者に関する福祉、環境に配慮した生活など社会ともつながる内容も取り上げているのに、2単位ってとても少ないと思いませんか。家庭科にもっと多くの授業時間が欲しいです。