ゴールした中島選手を待っていたもの

「なんでこんなことやってるんでしょうね。こんな格好で繁華街をうろついて、ただの不審者です 」

大会出場が決まった時に、登山愛好家だった父親に報告したところ、「そんなもん出るな」と無謀さを指摘された。山よりも静岡駅攻略の方が難儀だったかもしれない。

陽が沈み始めようとする午後6時、中島が大浜海岸へ辿り着く。

待っていた関、横井、そして竹内、久保とグータッチをしたあと、2歳の子どもを肩車して、午後6時3分、ゴールをくぐる。子どもが号泣する。

「ただの変態レースだけど、今の子どもたちの世界から失われていく“リアル”が詰まっている」。次々と幻覚に襲われて、日焼けと大量のヒルに咬まれて血まみれの足で415kmを走った43歳の冒険_3
ゴールした中島選手と家族
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大会直前、新型コロナに罹り、その間の埋め合わせをすべく、直前の金曜夜まで仕事をこなし、そこから荷造りをしてようやく大会に間に合わせた。このレース中も仕事の連絡がいくつも入ってきて、それに対応しながらの道行きだった。

「サラリーマンですから。大々的に山梨を代表して選手として戦ってきますとか、そういう世界じゃないですからね。物好きであり、もっと言えばただの変態ですよ」

平凡でタフなサラリーマンが、ミッションをコンプリートした。

「ママ、ママ」と泣きわめくばかりの息子は後日、片言で「トランスパン、南アプルス、パパ走った」などと言うようになった。中島は、いつかこのレースについて語って聞かせたいと願っている。

その中島を、少し離れて途中でリタイヤした久保が見つめていた。塩島槙人カメラマンが近づくと呟いた。

「悔しかったなー」
「でも、まだ挑戦したいと思います」
「早速、チョット思っちゃったですね。こんな光景を見たら、みんなそう思いますよ」

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取材・文/齊藤 倫雄

『激走! 日本アルプス大縦断TJAR2022 挑戦は連鎖する』(集英社)
齊藤 倫雄&NHK取材班・著
「ただの変態レースだけど、今の子どもたちの世界から失われていく“リアル”が詰まっている」。次々と幻覚に襲われて、日焼けと大量のヒルに咬まれて血まみれの足で415kmを走った43歳の冒険_4
2023年4月26日発売
2090円(税込)
四六判/300ページ
ISBN:978-4-08-781735-5
2022年8月に開催された日本一過酷な山岳レース
「トランスジャパンアルプスレース(TJAR)」。台風直撃! 進むか、リタイアか!?
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