次々起きる幻覚で記憶もなくなり…
そこに初出場のナンバー13・関淳志(41歳)と2回目の出場となる横井秀輔(42歳)がちょっとの差で入り込む。この3人は、ほぼ同じペースで前後しながらここまで進んできた。中央アルプスでは関と中島は、二人して並んで立ち寝しているところを後続のナンバー22・今崎治男(46歳)に発見され、「大丈夫か」と声をかけられていた。
前夜の夜間の道行きは3人全員にとって、厳しい試練となった。午後5時に熊の平小屋で天気予報を確認した時には、9時間後、すなわち6日目の午前2時から雨という話だったが、実際にはずっと早く降り始めた。
風が吹かない中、レインウェアを羽織るが蒸し暑く、水分と体力をかなり消耗した。塩見岳の急登では一転して強風が吹き荒れ、油断すると滑落しそうな中を四つん這いで登った。3人は土砂降りの中、それぞれ6時間ほどビバークして寒さを凌いできた。
下りも険しく、関は「鎖場ではスリップに注意をしなければ」と思った矢先に足を滑らせた。すんでのところで鎖にぶら下がって、滑落を免れる。横井がすぐに駆け寄った。だが、関はほどなくして再び足を滑らせ、今度は岩に左足首の外側を激しくぶつけ、しばらく動けなくなった。
深夜、関と横井の二人で湯を沸かし、体を温めて休憩を取っているとようやく雨が止み、明るくなってきた。そこから、ここまでやってきた。中島は二人を見てすぐ、声をかける。
「あれ、会いたかったよ!」
「会いたかったって……さっき会ったじゃないですか?」
「えっ どこかで会いました?」
中島には記憶がない。昨夜、悪天候の中、塩見岳を越えるために精神力を使いきり、頭の中がよれよれになっていた。中島はやがて、ふやけた足のケアを始める。右小指付け根、左の親指から中指にかけてが水ぶくれになっていた。中島はここまで残しておいた味噌ラーメンと中華丼の調理を始める。撮影をする濱野があることに気づいて、3人に問いかける。
「皆さん、世代はほぼ一緒ですね」
「そうっすね、大体」と横井。
「40から45くらいの人が、一番いるんじゃないですかね」と関。
「メチャクチャ過酷なレースなのに、なぜその世代が」
「いろいろと……辛いことが、あったんでしょうねぇ」と、かわすように答える横井。