恋の結末以上に、「どう生きるか」を大事に
―― 「#4 Don't Let Me Down ――わたしを失望させないで」は、既刊作品とのつながりが色濃く感じられる、宇山さんのファンにとって嬉しい作品だと思います。時計職人の彼氏からのプロポーズがなかなかないことにやきもきしている三十歳の女性、由希子が主人公の切ない恋物語。二人は付き合い始めて十二年たっています。
過去と現在を描くことで、ノスタルジーと現実がリンクして着地するような物語が書きたい。それでああいう形にしたんです。青春を捧げた恋愛を描くうえで、二人の関係の歴史を「時計」というアイテムで象徴できたのが自分としては手応えがありました。
―― 「#5 Something Just Like This ――私が求めているもの」の未音は、ピアニストのお母さんに厳しく指導されて育った二十代の女性ですね。
年齢的には四話の由希子に近いですが、まったく違うタイプの女性を描きたいなと。五話は最初から主人公とピアノと母親との関係を描こうと決めていたので、それに伴って彼女のバックグラウンドみたいなものを組み立てていきました。
―― ピアノと母親というキーワードはどこから?
特別な結びつきがある関係を書きたかったんです。普通の母と娘ではなく、親子の情を超えた執念みたいなものが横たわる関係ですね。母の強烈な思いに苦しんでいたヒロインが、ピアノを通じて母のことを考えるような話にできればと。
―― 未音と母親との関係は緊張感のあるものですが、未音が出会った肇が、漫画家を目指して笑えないギャグ漫画を描いているという設定に救われました。肇が描いた絵が掲載されていますが、宇山さんが描かれたんですか?
仮でなんとなく描いたら、編集者の方から「いいんじゃないですか、これで」となったんです。イラストレーターの方にお願いするとお上手なので「プロじゃん」ってなっちゃう。下手な人が描いたほうが、この物語にはリアルかなと。
―― 優しくて温かみのある絵ですよね。
本当に下手なのでお恥ずかしい。肇は、未音とは違う意味で、子供の頃の思いを今も忘れずに持っているので、未音とは対照的でありつつ、共通項が多い相手でもあるんですよね。肇が未音の癒しになったり、気づきにつながったらいいなと思いました。
六つのお話にはどれも思い入れがあるんですが、中でも第五話は自分にとっての新しい扉を開けたと思います。今までは恋愛を通して二人の関係や、それぞれの夢を書いてきましたが、この五話のメインは、母とピアノと主人公の関係。そこに恋愛要素が入ってきて主人公の人生を支えたり、変えたりすることになる。今までとは違う形で恋愛を描けたのがよかったなと思ってます。
―― 最後の「#6 Who Do You Love ――今、誰を愛してる?」は、ネタばれになってしまうのでお聞きしませんが、読み終えてみると、六人の女性主人公がそれぞれ個性的ですよね。
この連作短編集にはベースとなったストーリーがあったにもかかわらず、意外と苦労したのはその点でした。彼女たちがこの物語の中でどう生きるのかを考えなくてはならないので、この子はどういう子なんだろう、どういうことを求めているのかな、と模索する時間がかかりましたね。僕の今までのラブストーリーもそうなんですが、恋愛を描いていても結ばれるか、結ばれないかは意外と大事ではなくて、どう生きるかみたいなことを大事にしたいと思ってきたところがあります。
―― 『いつか君が運命の人』は「小説すばる」に連載(「チェイン・ストーリーズ ひとつなぎの恋の物語」)されていましたが、小説誌での初連載だったそうですね。
そうですね。小説家が締め切りに追われる恐怖を初めて味わいました(笑)。でも連載をやってよかったと思います。書き下ろし長編とは違う頭の使い方というか、物語の引っ張り方を考えられたので。次回はどんな話になるのかなと思ってくださるような「引き」を意識したというか、連続ドラマを小説でもやってみるような試みになりました。
―― 脚本家でもある宇山さんの経験が生きていますね。読者としては最後がどう決着するのかなという楽しみがありました。
そう読んでもらえると嬉しいですね。一編一編が独立したお話というよりも、六つで一つの物語になる。一つ一つの物語が一人一人の人生であり、物語の結末でつながるようにしたかったんです。さっき出た「奇跡が起こるかどうかを決めるのは未来の君だよ」という言葉の中の、奇跡とは何だったのか。それが、六人の物語を経て感じられるようになっていればいいですね。
それから、この短編集は恋愛がお話のメインではありますけど、これまで話してきたように、広がりのある物語になりました。だから例えば友達との関係とか、親との関係など、いろんな人生の側面、その時々の人生の悩みやテーマみたいなものに、一話から六話までの中で何か触れるものがあれば嬉しいなと思っています。