弁護士、医師、国税局査察官、新聞記者など、これまで米倉涼子さんはプロフェッショナルを演じることが多く、知られざる責務の中身を演じてきました。硬直した組織に風穴を開ける役どころがこれほど似合う方もそうそういません。
米倉さんの待望の主演最新作で、3月17日から世界同時配信されるAmazon Originalドラマ『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』では、異国で亡くなった人を母国に運ぶ国際霊柩送還士という聞きなれないプロフェッショナルの役柄を演じます。
原作は第10回開高健ノンフィクション賞を受賞した佐々涼子の『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社文庫刊)。複雑な手続きを経て、海外で亡くなった人の遺体を母国へ搬送し、生前の姿に限りなく近く修復し、遺族の元へと送り届ける仕事となります。
悲しみ、怒り、失意、様々なネガティブな感情が飛び交う葬儀の中、遺族が心から「さようなら」と言える場作りを目指す「エンジェルハース」(劇中の会社名)の社長、伊沢那美を熱く演じた米倉さんにお話を伺いました。
脚本は「どうする!家康」古沢良太さんと、「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」の香坂隆史さん。LEE本誌4月号のインタビューページと併せてお読みください。
米倉涼子(Ryoko Yonekura)●1975年8月1日生まれ。1993年よりモデルとして活動し、1999年に俳優へ転向。2004年、ドラマ『松本清張 黒革の手帖』での演技が話題に。2012年、ミュージカル『CHICAGO』でブロードウェイデビューを果たし、ドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』も大ヒット。シリーズ化され高視聴率を記録。
Instagram:ryoko_yonekura_0801
公式サイト:https://desafio-net.jp/
那美のモデルは、面倒見がよくて温かくて責任感の強い、まさに姉御という方
──米倉さんが演じられた伊沢那美にはモデルとなった方がいますが、どういった部分を大切に演じられましたか?
「撮影前に会わせていただいたんですけど、面倒見がよくて温かくて責任感の強い、まさに姉御という方でした。ご自身は子ども二人を育てながら、葬儀会社でアルバイトから始めたところ、ご遺族の気持ちを察知する能力に長けているところから最終的には、独立して社長にまでなった方。自分のチャームポイントをちゃんと生かした仕事をされているんですよね。他人にはない自らの特性がこの国際霊柩送還士という仕事を呼んだのかなと感じましたね。
今回のドラマはどちらかというと仕事中心のストーリーになっているのですが、織山尚大(少年忍者/ジャニーズJr.) さん、鎌田英怜奈さん演じる二人の子どもに『それでも親か?』って言われる台詞があるなど、私自身、これまであまり演じたことのない役柄だったと思います」
多岐にわたる国際霊柩送還士の仕事の内容
──この企画は、那美役は米倉さんしか考えられないとオファーされたと聞いていますが、国際霊柩送還士という職業についてはどう感じられましたか?
「私はすごく単純な人間ですが、那美のモデルとなった方もどっちかというとそうだと思う。仕事の内容は複雑だけど、その仕事をしている人の資質はとてもシンプルで、状況に怒っているときは怒っているという感情がわかるし、真剣なときもわかる、かけてくれる優しい言葉が嘘じゃないのもわかる。仕事に対してまっすぐなのも絶対本当で、お洋服はわかりやすく派手で(笑)、とらえやすかったですね。
ドラマではかなり大げさにしているように見えるかもしれませんが、実際、ああいう感じの印象なんです。仕事の内容を伺うと、コネクションの広さで、人と人を繋いでできる仕事だとよくわかりました。ご遺体を運ぶと言っても、亡くなった国の宗教観も関係してくるし、大使館とも協力しないといけないし、ご遺族だけの力では困難なことを代理でやる仕事です。そして、搬送されてきたご遺体を、生前に近い姿にまできちんと修復してご遺族の元へ送り届ける。
本当にやらなくちゃいけない内容が多岐に渡っているし、責任も大きい。それを使命感としてやっているのも国際霊柩送還士の方々の素晴らしいところなんじゃないかと感じています。一刻も早くご遺体とご遺族を対面させてあげて、最後のお別れをきちんとしてもらう。それが一番大切な職務だという信念に私は心を打たれましたし、ドラマを観て下さる方にもそれが伝わればいいなと願っています」
送り出すまでの時間の中で、どれだけの思いを叶えられるか。
──ドラマで取り上げられているエピソードで、こういうことがあるんだなと驚かれたところはありますか?
「若くして亡くなった女性にドレスを着せてあげたいというご遺族の意向を受けて、身長190㎝のドレスを探す場面がありますけど、脚本を読んだとき、なるほどって思ったんです。そういう思いを細部まで拾って描くんだって。
こういう対応って、誰かが必死に努力しないと叶えられない事じゃないですか。送還まで時間がないからできないという考え方もあるけど、送り出すまでの時間の中でどれだけご遺族の思いを叶えられるか、それは仕事に誇りを持っているから頑張れること。
今回のドラマでは国際霊柩送還士という仕事でしたけど、これは、毎回、プロフェッショナルな役柄を演じながら感じていることです。自分が生きている中で、自分の仕事にいかに誇りを持ってできるかって本当に大事だなと。それも、メッセージとして、視聴者のみなさんに伝わったらいいなって思っています」
──米倉さんが演じるプロフェッショナルな女性像がドラマを通して、世間一般に流布することによって、ロールモデルにしている人は多いだろうなといつも想像して見ています。ああいう風に男社会の中で切り込みたいとか、言い返したいとか、立ち振るまいたいとか。米倉さんの放ったイメージを心に隠し持っていて、いつか自分も、あの決め台詞を言ってやるぜというような。
「いやいや、それは皆さんだって、誰かのロールモデルになっていると思いますよ」
──そうありたいんですけど、米倉さんが演じる女性像の影響力はとても大きいと思います。
「それを言ったら、絵を描くアーティストはたった1枚の絵で伝えられたりするから、私はそちらの方がすごいなあと思いますよ。今回のドラマで面白いのは、松本穂香ちゃんが演じる新入社員の凛子がね、私の演じる那美にバンバン指摘してくるんですよ。『今の社長(那美)の発言はハラスメントです』とか。今の若い人はえらいな、ここまではっきり言えて、私は那美よりも凛子の方が勇気があると思います。
一回、二回じゃなくて、全編通して凛子は細かく、ずっと指摘するんですけど、何度も言われるうちに、那美も『わかってる』ってゆらゆらしてくる。そういう人間関係が饒舌な脚本だなと思いますね。
共同経営者で、会長の遠藤憲一さんのキャラクターも特徴的ですけど、久しぶりにお仕事をご一緒させていただいて、すごく楽しかった!あの渋い声で、ドスの利いたセリフを聞くのも面白かったですね。野呂佳代ちゃんはムードメーカーで、なんにでも対応できるんですよ、素晴らしい役者さんだと思いました」