「鼠蹊部」という言葉
――小説内に「鼠蹊部(そけいぶ)」という表現が出てくるのですが、「鼠蹊部」という言葉を小説で読むのは珍しいな、と興味を惹かれました。単語や表現などに関して、ご自身ならではのこだわりなど、意識されていることはありますか?
私がAV女優という職業をしているのもあって、鼠蹊部という言葉は挨拶言葉くらいに捉えていたというか自然と出た部分もあると思います(笑)。
あと、初稿では『ごっこ』の最後のシーンの台詞で「パイパン」という言葉を書いたんですけど、「パイパンは認知度があまり高くないかもしれない」と編集者さんからご指摘いただいて、たしかに、と思って。
パイパンは封印して、「毛を剃る」という具体的な言葉に変えたり、体を表す言葉や状態を表す言葉でも、カタカナはあまり使わないようにしました。
編集者さんとそういうやり取りを真面目にしているときに、自分はかなり職業病に侵されていて、聞きなじみのある、日常生活でもよく使う言葉だと思っていても、世間からすると異質な響きだったりするんだろうな、と自覚しましたね。
――そういう言葉にあまり触れたことがない読者の方にも届けたい、という気持ちでしょうか?
そうですね、一回ググらせたりする手間を掛けさせてしまうと、流れを止めちゃうな、と思って。なるべくみんなが知っている言葉を使うことは意識しました。
――意識されている他の作家さんはいらっしゃいますか?
意識ではないんですけど、ミーハーかっていうくらい、書店さんで大きく展開されている本は必ず手に取ったり、評判がいい本にはすぐに飛びついて読みこむ派なので、大好きな作家さんばかりで。
読んだ本の感動を引きずって、すぐに影響されるので、読後「こんな素晴らしい作品をいつか書いてみたい」という思いを繰り返してます。
取材・文/佐藤麻水 撮影/浅井裕也