変化を起こしたければ、若い人の感性に任せるべき

 インターネットが世の中に広まった当時、その技術についてはみんな関心があったし、自社の製品では何ができるかは当然考えていました。しかし、もう少し俯瞰してみて、自分の会社のことだけではなく、インターネットで社会はどう変わるのか、我々には何ができるんだろうか、どうやったら世の中を感化できるのか、というディスカッションがあったのかどうか。

あったとしたら、それは本当に適切なメンバーで行われていたのか。新しい技術をどう使うかについては、やっぱり若い人でなければアンテナは働かないと思うんですね。正直、私自身そうでしたし、父やそのまわりの役員たちも、そこはわからなかった。そのあたりが日本企業の弱みだったのではないかと思います。

江上 本当にそう思います。テレビが多チャンネル化した頃の1996年、ロサンゼルスのある会社へ行ったんです。その会社では、撮影所からテープを自転車や車で運んできて、ソニー製のビデオデッキに入れて映像配信していたんですが、それが後のネットフリックスになったのかもしれません。

 もともとはレンタルの会社ですものね、ネットフリックスって。

江上 TSUTAYAも、レンタルよりも配信の方がいいんじゃないの?ということで、変わっていった。日本の場合も、そういう発想をして、もっと簡単に便利になると考えた人がいたし、アメリカではDVDレンタルの会社がネットフリックスになった。そこの“間”が日本には欠けていたんだと思う。

 私自身も、TDKブランドのカッセットテープという一時代を築いた商品を売っていましたが、その時のブランドとか資産をうまく使えないまま、結局は事業撤退となってしまった。その後悔はすごく大きいですね。ネットフリックスのように業態を変えながら、さらに成長している企業の力強さはすごいと思います。

江上 ソニーもウォークマンを作って、音楽デッキを屋外に持ち出した。

 画期的でしたね。

江上 画期的だったけれど、それで止まっちゃった。そこからデジタルの時代が始まった時にアップルに取って代わられる。それ以降、日本企業の姿はない。

 ソニーだから音は良くなければいけない、とかに縛られたのかもしれませんね。アップルだったら、音が多少ダメでも便利な方がいいから出そうという判断をして市場に投入する。

これ私の想像ですが。ソニーでも「もっと手軽に音楽を楽しめた方がいい」と思っていた人もいたと思います。やっぱり若い人や女性など、いろいろな人が自由にモノを言える環境を作らないと、ズルズル同じことの繰り返しで、最終的には退場になってしまうんじゃないかという気がしますね。

江上 その変化の発想がのびやかにならないですよね。単にDXとかの標語ばかりで、標語の枠内でモノゴトを考えてしまう。自動車がガソリンからEVに変わりつつあるけれども、その枠内で何をすべきかと考えるのではなく、枠外で考えてみる。逆にガソリン自動車を徹底的に追求する企業があってもいいと思う。

韓国へ行った時、韓流ドラマが世界を席巻した理由を教えてくれたんです。あるテレビ局の社員が、ドラマをその都度ネットで世界に発信したいと提案したそうです。「そんなことしたら誰もテレビ見てくれないじゃないか」と役員会で議論になったそうですが、それを上手く騙して無料で配信したら、これが大成功した。それ以来、世界を相手にすれば商売になることがわかった。

韓国では、かつてはドラマも音楽もダンスも日本に学んだけれど、それでは日本の市場にしか通用しなかった。

 映画も音楽もいまや韓国はすごいですよね。

江上 最近はハリウッドぽいじゃないですか。

 韓国の例をみると、上司に理解してもらおうと思わずにやってしまう、上司も自分の成功体験に囚われず若い人に任せてやらせてみるというのが大事な気がします。みんなに理解されようとすると企画が薄まってマイルドになってつまらなくなりますし。

とにかく、この電機産業の失敗は、他の業界・組織でも起こり得る話だと思いますし、自分のこの体験談が何かの役に立つことを願っています。

今日は本当にありがとうございました。

江上 こちらこそ、ありがとうございました。

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取材・文/杉本進  撮影/五十嵐和博

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