「本当はプロレスを続けていきたい。だけど……」
武藤敬司が引退を表明したのは、2022年6月12日さいたまスーパーアリーナだった。
武藤はこの日、所属するプロレスリング・ノア、DDT、東京女子プロレス、ガンバレ☆プロレスを運営する「Cyber Fight(サイバーファイト)」が年に1度開催する4団体合同興行「サイバーファイトフェスティバル2022」のリング上で「来年の春までには引退します」と発表した。
この大会から4か月前の2月8日、武藤は飯田橋のホテルメトロポリタンエドモントで緊急会見を開き、左股関節唇の損傷で長期欠場することを発表した。同時に丸藤正道と保持していたGHCタッグのベルト返上も明かした。
「歩くことがままならない。病院に行ったところ、『長期欠場した方がいいんじゃないか』と言われた」
股関節の違和感は、前年12月23日に59歳の誕生日を迎えた8日後の元日、日本武道館で丸藤と組んで田中将斗、望月成晃の挑戦を受けたGHCタッグ戦で感じていたという。
1月8日に横浜アリーナで行った新日本プロレスとの対抗戦の直前には悲鳴をあげるほど悪化していたことを明かした。
「8日(の横浜アリーナ)は関節の中に注射を打ってもらって何とかこなせた。だけど、痛み止めが切れた途端に本当に動かなくなった」
横浜アリーナの対抗戦は、メインイベントで清宮海斗と組んで新日本プロレスのオカダ・カズチカ、棚橋弘至と対戦するビッグマッチだった。新型コロナウイルス禍で観客動員に苦戦するプロレス界にあって、団体の枠を超えたドリームカードは久々の活況を呈した興行となった。メインイベントを務めた武藤は、股関節の痛みに耐えながらオカダとの初対決、棚橋との久々の再会マッチへ挑んでいた。
それでも武藤は復帰する。