今回ダメだったらもう諦めようかな

――仕事と勉強、両立できた理由を教えてください。

一級建築士の試験を受験すると決めたとき、両親からは「きちんと本業をやった上でのプラスαだからね」と言われていましたし、本業を疎かにして試験だけに全力を注ぐというのは私自身のポリシーにも反するので、本業に全力でぶつかり空いた隙間の時間を使って、勉強も本気でやる――最初にそう決めたことが大きかったと思います。

――本気で仕事をして、なおかつ1年で1,000時間の勉強時間を確保するというのは、簡単なことじゃないですよね。

大好きなゲームを封印。お酒を飲んだのも1年で2回だけ。料理をするのが好きなのですが、その時間がもったいないので日高屋さんに通い、待っている間も勉強。試験問題のアプリがあって、ベッドに入ってからも格闘するんですが、気がついたら画面を開いたまま寝落ちしてしまって。

朝起きて「あぁ、この問題が解けないまま寝ちゃったんだ…」と落ち込む毎日でした(苦笑)。

――途中でもうやめようとは思わなかった?

不思議なんですけど、一度もやめようとは思わなかったですね。ただ今回落ちたらもう一級建築士は諦めてもいいかなとは思っていました。

――それは何故?

それくらいしんどかったので。これと同じことをもう一度やるのは、体力的にも精神的にもできないしやりたくない。目には見えていない部分で、絶対にストレスもかかっていたと思いますし自分を追い込んでやっていたので、今回落ちたらもう一度というのは無理だろうなとは思っていました。

――学科試験の発表は、初主演舞台『赤羽焼肉劇場』の前日、9月6日でした。

自己採点で大丈夫かなというのはあったんですが、共演者の方、スタッフのみなさんには、「もし落ちていたらその日は落ち込んでいると思いますが、本番は頑張りますから見逃してください」と了解をいただいていて(笑)。

「あなたは、令和4年一級建築士試験『学科の試験』において国土交通大臣より、合格と判定されたので、通知します」という書類を手にしたときはやった!と。でもそれは一瞬で本当に大変なのはそこからでした。

――学科試験の次は最後の難関、設計製図の試験です。

学科試験の発表前……8月から本格的に設計製図の勉強はじめ、二次の試験日は、10月9日。2ヵ月ちょっとしかないのに、私にとっては初見のことばかりで。先生から、「そんなことも知らないのか」とうんざりしたような顔で言われると、私も焦りからついカッとなって、「それを教わりにきているんじゃないですか」と言い返したりして(苦笑)。

何度も悔しくて泣いてました。

――この間、初主演舞台『赤羽焼肉劇場』の他にも、日本テレビ系連続ドラマ『霊媒探偵・城塚翡翠』の撮影があり、TBS系『プレバト』では水彩画を描き、趣味のひとつ競馬(中山馬主協会のHP)のコラム執筆……と仕事が山積みでした。

水彩画は5日間で計40時間をかけて描き、終わったと思ったら次はコラム。競馬は大好きで依頼をいただいたのはすごく嬉しんですが、なぜ今、と思ったりもしましたね(笑)。

――1日48時間あったとしても、まだ足りません(笑)。

そうなんですよ。でもどう頑張っても1日は24時間しかなくて。二次試験は一次合格後5年間で3回受験資格があるので、正直9月の半ばくらいまでは、今年はパスして来年にしようかなと弱気になる自分がいました。

――弱気になった田中さんに、もう一度火を付けたのは?

両親とマネージャーさんの、「勢いのある今年受けた方が絶対にいい」という、言葉です(笑)。その言葉に背中を押され、諦めずに頑張ることができました。

合格率9.9%の超難関を突破し、「一級建築士試験」に合格。女優と一級建築士という異次元の二刀流を成し遂げた田中道子が明かす苦闘の1年3ヵ月_2
田中さんが実際に授業で描いた図面。左が初期、右が試験の2週間ほど前。先生からの赤字チェックが目に見えて減少しているのがわかる