小学校で家庭科の授業が始まったのは、戦後間もない昭和22年のこと。それからしばらく経ち、各教材メーカーから「裁縫箱セット」が発売されたが、当時の学校推薦のカタログには、男子児童は「兜」、女子児童は「毬」の柄など選択肢が少なかった。
しかし1990年代に入ると、家庭科の授業でエプロンや手提げ袋などをつくる学校が増えはじめ、それにともないストライプや水玉など、裁縫箱セットの柄バリエーションも充実してきた。
そして2001年に登場した初代ドラゴンシリーズ「LOURD LEGER(ルールレジェ)」が“小学校裁縫セット界”の歴史を変えた。
君はドラゴンの裁縫セットを覚えているか? 歴代シリーズには和風の龍やシャチまで。「とにかくカッコいいドラゴンをデザインし続けます」と担当者は語る
小学校の家庭科の授業で使われる裁縫道具のバリエーションのひとつとして、2001年に販売が開始された「ドラゴンの裁縫セット」。学校推薦のグッズカタログにしばしば掲載されており、「なつかしい!」と思う人も多いだろう。そんな「ドラゴンシリーズ」が、今なお小学生男子から愛される理由について、開発担当者に聞いてみた。
小学生男子に即人気となった初代ドラゴン「LOURD LEGER(ルールレジェ)」

裁縫箱の歴史を変えた初代ドラゴンシリーズ「LOURD LEGER(ルールレジェ)」
販売元の新学社によると、当時の学校推薦のカタログのなかでは、男子柄ではNo.1の売れ筋だったようで、1クラスの男子児童(20人)のうち、およそ半数以上が「ドラゴンの裁縫セット」を使っていたこともあったという。事実、記者(26才)も当時は”ドラゴン使い”のひとりだった。
そこで今回は、「ドラゴンシリーズ」の生みの親・株式会社サンワードに直撃! 開発担当者にその制作秘話について存分に語ってもらった。
――ドラゴンシリーズを手がけるようになったきっかけを教えてください。
当時、男の子向けの裁縫セットとなると、サッカーやバスケットボールといった、スポーツをモチーフにしたデザインばかりでした。
そこで、学習教材メーカーの新学社さまから「男の子向けのデザインとして、ドラゴンはどうでしょうか?」とリクエストいただいたのがきっかけで、「LOURD LEGER(ルールレジェ)」が作られたと、そのときの担当者から聞いております。

サンワードが手掛けたデザイン。犬のキャラクターの「ボブドッグ」は誰しもが一度は見たことがあるはず
――サンワードは「ボブドッグ」をはじめとした、かわいらしいキャラクターを多く取り扱っています。そんな社内でドラゴンシリーズを生み出すことに反対はなかったのですか?
創業当時(1988年)から各種メーカー様向けに、ファンシーなキャラクター以外にも、「ドクロマーク」などの“男の子ウケしそうなデザイン”も手がけていたので、そういった抵抗はなかったと思われます。
そもそも、弊社の企業理念のひとつに「世代を超えて伝わっていくキャラクターを作りたい」という想いがあります。かわいらしいキャラクターもドラゴンも、みなさまの心に長く残り続けることさえできれば、そこは問題ないのかな、ととらえています。
「小学生のころの黒歴史」「今思うとダサすぎる」の声には…
――その後、歴代でドラゴンシリーズは何種類ほど生み出されたのですか?
家庭科のカタログとして、裁縫セットのほかにも、エプロンや書道セット、ナップザックや彫刻刀ケースなども展開していて、基本的に1年ごとに新しいデザインを提案しています。だから採用されなかった“ボツドラゴン”も合わせると、トータルで50種類以上はデザインしました。
「INFERNO DRAGON(インフェルノドラゴン)」「SOUL OF SALAMANDER(ソウルオブサラマンダー)」「DRAGON OF DARKNESS(ドラゴンオブダークネス)」「HELLFIRE DRAGON(ヘルファイヤードラゴン)」など、とにかくかっこいいドラゴンを目指してデザインしてきました。

ネーミングも含めて中二病感満載の「インフェルノドラゴン」
――全部で50種類以上?!
だから弊社のデザイナーは、絶対にドラゴンのデザインからは逃げられません。新人研修として、とりあえず「かわいいキャラクター」と「ドラゴン」の両方を描かなきゃいけないんです。
私もいろいろなドラゴンシリーズに携わりましたが、いまだにTwitter(現X)で「昔このドラゴンの裁縫箱使ってたわ~」や「今でも実家のタンスの奥に眠ってます」といったカキコミを見つけると、「やっぱりこの会社で働いていてよかったな~」とうれしくなりますね。
――そんなSNSのカキコミのなかには、「小学生のころの黒歴史」「中二病すぎて痛々しい」「今思うとダサすぎる」といったコメントもありますが……?
そもそもメインターゲットは「小学生の男の子」なので、大人になるとダサく見えてしまうのはしかたないとも思いますね。
ですが、そうやってネタにしてくださる時点で、その方の心には少なからず残っているということでしょうし、こうしてみなさまの共通認識としてあるのは光栄なことです。これが、ただの水玉模様やボーダー柄だったら話題にも上がらないわけですし。

「中二病といまだに言われるのは印象に残っている証」(担当者)
――ドラゴンシリーズはゲームに出てきそうな西洋風の龍のデザイン。何かを参考にしているのですか?
基本的には、ドラゴンが登場する作品すべてからインスピレーションを受けていますし、他社さまから出たドラゴンものも、くまなくチェックしています。
ただし弊社は、あくまでも“小学生がかっこいいと思うドラゴンを描くこと”にこだわりがあるので、リアルすぎないように注意を払ってます。
あと、これはすべてではないんですけど、目が赤く光っている方が人気が出やすいという統計もあるので、そこも意識しています。
ネットで大バズりした和風テイストやシャチモチーフ
――これまでのドラゴンシリーズに、大きな変化などはありましたか?
今から7、8年ほど前に「ドラゴン=西洋の龍」という伝統からモデルチェンジし、和風のモチーフに「龍」の漢字を全面に押しだした「画竜点睛」という商品をつくりました。
小学生を励ます意味も込めて、プラトンの格言である「自分に打ち勝つことが、最も偉大な勝利である」とつけたらかなり人気となりました。
この流れで「それならシャチはどうだ?」と、「自分を超えろ」という格言をつけて売り出した「シャチザダイブ」は、ありがたいことにネット上で大バズリでした。

龍で味をしめたサンワード社は海のギャングをも中二感にカスタマイズ?
――そんな担当者にとって、歴代のドラゴンのなかではどれが一番つよいと思いますか?
そりゃやっぱり、初代のドラゴン「LOURD LEGER(ルールレジェ)」ですね。フォルムにも一切の無駄がないし、弊社のドラゴンシリーズの方向性を決定づけた”神様のような存在”ですから。
今でも“ドラゴンの裁縫箱”といえば、この「LOURD LEGER(ルールレジェ)」を思い浮かべる方も多いですし、人気も頭ひとつ抜けてます。

ドラゴンシリーズはエプロン界でも男子小学生から人気
――今後のドラゴンシリーズの展望について教えてください。
私個人としては、小学生が「なんかよくわからないけどかっこいい!」と思ってもらえるようなドラゴンを追及していきたいのですが、そこは新学社さまの意向もあるので、なんともお答えできません。
とはいえ、今後も「これ買いたい!」と思ってもらえるようなドラゴンをつくっていくため、弊社一同がんばります!
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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