統一地方選で議席を大幅に伸ばし、報道各社の世論調査では野党第一党である立憲民主党の支持率を上回る勢いを見せている日本維新の会。
永田町ではG7広島サミット後の早期解散説がくすぶり続ける中、維新は衆院選の各選挙区での候補者擁立に向けた動きを強めている。
そうした中、旧民主党系の勢力が日本維新の会に流出していく事態も起きており、当事者である立憲は早くも苦しい立場に追い込まれている。
「維新から衆院選に出ないか」
統一地方選後半戦の投開票から一夜明けた4月24日。首都圏の地方議員選挙に出馬して戦ったが落選してしまった男性のもとに、維新の国会議員秘書が挨拶と共に声をかけてきた。
これまで旧民主党系の地方議員として活動してきた彼はすぐに返事をすることはできなかったが、勢いづいている維新からのオファーには魅力も感じた。
その場は「まだ選挙が終わったばかりなので」と取り繕ったが、その後も衆院選出馬については思案を続けている。
3月から4月にかけて全国の都道府県、市区町村で繰り広げられた統一地方選は、維新が全国の自治体の首長と地方議員の数を約400人から774人へと大幅に増やし、党勢を拡大させた。
その中でも奈良県知事選を制して維新公認の知事を誕生させたことや、同時に行われた衆参5補選の和歌山1区で自民党に勝利し議席を獲得したことは大きなニュースになり、新聞各紙の見出しを躍らせた。

「維新から衆院選に出ないか」「今の立憲から出馬するのはちょっと…」勢いづく維新と崖っぷちの立憲。“共闘ご破算”なら、ほくそ笑むは自民ばかり
統一地方選での躍進から、衆院選に向けて勢いづく日本維新の会。対する立憲民主党は維新との共闘から対決へ舵を切ったが、既に維新の勢いに押され苦境に立たされている。両党が熾烈な戦いを繰り広げた後に笑うのは自民党という、悲惨な構図も浮かび上がってきた。
維新から衆院選に出ないか

4月に行われた衆参5補選で唯一、自民党に土をつけた和歌山1区の林祐美氏(馬場伸幸氏facebookより)
こうした勢いもあり、報道各社の世論調査では維新の政党支持率が立憲を上回る結果が相次いでいる。
日経新聞とテレビ東京が4月28~30日に実施した世論調査では、維新13%に対して立憲9%。また、立憲と維新のどちらを野党として期待するかという問いには、51%が維新と答え、27%の立憲を大きく引き離した。
同じく4月29~30日に共同通信が実施した世論調査でも維新12.2%に対して立憲7.6%となり、維新が立憲を逆転した。
このように波に乗っている維新だが、課題は衆院選に向けた候補者擁立の準備がまだ十分に進んでいないところにある。
勢いづく維新と、混乱状態にある立憲
維新は衆院選で289ある全ての選挙区で候補者を擁立することを目指しているが、現在は現職41人と、各選挙区で活動する支部長29人にとどまっており、空白地帯が多いのが現状だ。
冒頭で触れた統一地方選落選者に対するオファーも、衆院選に向けて積極擁立を進めていく中での勧誘だったと言える。
「地方議員などの経験がある人を候補者として迎え入れることにより、擁立が進むだけでなく、競合を減らすこともできる。一石二鳥だ」と維新関係者は話す。
また、統一地方選での躍進の効果か、わざわざ維新側からオファーをしに出向かなくても、候補者への応募が殺到するような状態になっているようだ。
実際、5月10日に維新の馬場伸幸代表と面会した地方選の落選者によると、馬場氏は「衆院選候補者へのエントリー説明会に200人以上、維新がやっている政治塾には300人以上の申し込みがあった」と豪語していたという。
こうした維新の勢いとは裏腹に、苦境に立たされているのが立憲だ。
立憲は衆議院の現職が97人、衆院選候補者に内定して各選挙区で活動する総支部長が41人と、既に100人以上の戦力を抱えているが、野党第一党として選挙戦を戦うにはさらなる候補者の上積みが必要となる。
実は立憲はこれまで候補者擁立を抑えてきた。2021年衆院選に出馬し、その後も自前で地元活動を続けているが、未だに総支部長に選ばれていない人もいるほどだ。
その理由には、維新との選挙協力を視野に入れていたという事情がある。
昨年の臨時国会から立憲は維新に国会内で共闘することを持ちかけ、共に法案を提出するなど連携を深めてきた。

苦境に立たされている立憲民主党
これまでの国政選挙で立憲が議席を減らし、維新が議席を増やす中で、与党と対峙するのに両党が手を握ったほうがスケールメリットが働くという事情もあったが、ゆくゆくは衆院選において立憲と維新で候補者調整をし、与党と対決するという構想も描いていた。
そのため、維新と柔軟に調整ができるよう、地元で活動している人がいても総支部長には選任せず、様子見をしている地域がいくつかあったわけだ。
しかし、維新が統一地方選で躍進し、「野党第一党を目指す」と立憲との対決姿勢を強めると、立憲内でも「維新に遠慮せず候補者を積極的に立てるべきだ」という主戦論が意見の大半を占めるようになってきたのだ。
野党競合の末に、
漁夫の利を得て笑うのは自民党
ゴールデンウィーク明けの5月8日には、立憲の若手、中堅議員有志32名が「競合も辞さず戦う覚悟と決意を鮮明に示すべきであり、最低でも200以上の選挙区で与党に対抗できる強力な候補者を擁立すべき」とする緊急提言を泉健太代表に提出。

立憲の若手中堅議員から緊急提言を受ける泉氏
その2日後に開かれた両院議員懇談会では、泉代表が維新を念頭に「自民党の一部と同じような政策の新自由主義や、自助ばかりを強調する政治、核共有を検討するというような政治は対立軸にならない」と主張。
「立憲こそが自民党に代わり得る政権勢力の国民が望む選択肢である」と旗幟を鮮明にさせた。
この会合では統一地方選や衆参5補選の結果を受けて、立憲が次期衆院選に向けてどう臨んでいくかが話し合われたが、候補者擁立を積極的に進めることには賛同が相次ぎ、維新との候補者調整について話は出なかったという。
他方、今から候補者擁立を急ピッチで進めていくことについては不安の声も漏れる。
立憲関係者は「これまで候補者として目をつけていた人から『今の立憲から出馬するのはちょっと…』と断られるケースも出ている。これから積極的に擁立しようとしても、公募への応募が殺到している維新に候補者数で負けてしまう可能性すらある。そうすると、選挙前から『自民VS維新』という構図に見られ、厳しい戦いを強いられてしまう」と嘆いた。
まるで競争するかのように全国各地で候補者擁立を進める立憲と維新。
だが、両党の競合が増えるほど、立憲は勢いづく維新に無党派層の浮動票を食われ苦戦し、一方で維新も自民と立憲を下して選挙区で勝ち残るには、関西圏以外ではまだまだ力不足と言えるだろう。

緊急提言の後にぶら下り取材を受ける泉氏
過熱する候補者擁立競争の先に待っているのは、両党が共倒れして野党が焼け野原になってしまっている未来かもしれない。
立憲若手議員は語る。
「もう維新と全面対決するしかないが、結局両党とも落選者が続出して、比例復活でどれだけ議員を救えるかという悲しい戦いになりそうだ。しかし、もう引き返せない」
このままいけば、最後にほくそ笑むのはやはり自民党になりそうだ。
文・写真/宮原健太
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