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推計2万2325日の服役期間を終えて

2019(令和元)年秋、ついに一人の無期懲役囚が刑務所の中から姿を現した。少し離れた門のところから、カメラ越しに見えるのは、痩せ細った男。眩しそうに目を細めたそのとき、その瞳はまるでビー玉のように光って見えた。

最初の一挙手一投足を、見逃すわけにはいかない。なんてったって、世紀の瞬間かもしれないのだから。83歳で皮膚こそ皺だらけにはなったが、その男を長きに渡って取り巻いた高い壁は、もはやない。男は壁の外に出たのだ。

少しは感慨に耽っても良さそうなものだが、男は立ち止まる様子もなく、そそくさと迎えの車に乗り込んでいく。フロントガラス越しの後部座席にうっすらと見える顔は、何も語ってくれない。笑みを浮かべることもなく、表情はのっぺりとしたままだ。

緊張しているのか。いや、その服役期間を鑑みれば無理もない。なにせ彼は「日本一長く服役した男」なのだから。

戦後、日本が高度経済成長に沸く1950年代末。21歳で無期懲役の判決を受け、服役した男は、以来、半世紀以上もの歳月を刑務所の中で過ごしてきた。

昭和はすでに遠く、平成も過ぎ去り、令和となったこの年。男にとっては61年ぶりの娑婆なのだ。その服役期間は日数にして、実に推計2万2325日に及ぶ。『ショーシャンクの空に』のレッドやブルックスも驚きだろう。

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