“住宅弱者”が直面する「同性カップルはトラブルが多いから…」「高齢者は支払いや孤独死の懸念があるから…」何も悪くないのに家を借りられない現実
住まいを思うように借りられない「住宅弱者」がいるのをご存じだろうか。高齢者や在日外国人、最近ではLGBTQカップルやフリーランスまでその対象になるという。不動産・住宅情報サービスのLIFULL HOME'Sで住宅弱者の支援事業を展開する龔軼群(キョウイグン)さんに「住宅弱者」問題について聞いた。
住宅弱者#1
「同性カップルお断り」「フリーランスは収入が不安定」
思わぬ壁になりやすい要素
――まず「住宅弱者」とは何か、教えていただけますか。
住宅弱者とは、高齢者や在日外国人、障害者、生活保護利用者など、賃貸物件が借りにくいために住まいの選択肢が制限されやすい人々のことです。
最近でこそ、社会はLGBTQへの理解が進みつつありますが、同性カップルがなかなか家を借りられないという問題も顕在化しています。また、近年は雇用形態の流動化によりフリーランスで働く人も多くいますが、正社員に比べて収入が安定しにくい点を不安視されて住宅弱者になってしまうケースも見られます。

LIFULL HOME'S「FRIENDLY DOOR」事業責任者 龔 軼群(キョウ イグン)さん
――住まいの選択肢が制限される原因は、何だと考えていますか?
在日外国人は日本に国籍がないこと、障害者や生活保護利用者は近隣住民とのトラブルやコミュニケーション上の問題が懸念されること、高齢者は孤独死の懸念があること……不動産をもつオーナーがこういったさまざまな要因を「不安材料」だと見なすと、オーナー審査に通らなくなります。
加えて、オーナー交渉に時間がかかることや成約に至らないかもしれない懸念などで、一部の不動産仲介会社の担当者が入居希望者に対して断ったり、適切な対応をしなかったりといったことが起きています。
一方で、日本は全体的に人口が減少しているため、空室率の上昇により、賃貸経営が難しくなっているオーナーも少なくありません。「部屋は埋めたい、でも誰にでも貸すのは不安」という考えによって、オーナー側も住宅弱者側も不幸になっているのが、もっとも大きな問題なのです。

「住宅弱者」に向けられる心ない言葉たち
――住宅弱者が家を借りるために不動産会社を巡るとき、どんな対応を受けているのでしょうか。
LIFULL HOME'Sは、2022年4月に住宅弱者の住まい探しに関する実態調査を行いました。それによると、家を探すために情報収集した際に「来店や対応を断られた」「自分の状況をどこまで正直に開示すべきが迷った、わからなかった」などと答えた住宅弱者は、住宅弱者になる要素がない一般層よりも、総じて多い結果になっています。

出典:LIFULL HOME'S報道参考資料(2022年7月)より(以下同)
また「自身のバックグラウンドがハードルとなり、候補となる物件が少なかった」と感じる住宅弱者は、以下のような割合でした。高齢者や在日外国人、シングルマザー・ファザーの比率が高めです。

不動産会社を訪問した際に「入居審査が通るか不安だった」「プライバシーを侵害されていると感じた」などと回答した住宅弱者も、一般層より多い傾向があります。

――「プライバシーを侵害されていると感じた」とありますが、具体的にどんな言葉を投げかけられたのでしょうか。
例えば、高齢者であれば「高齢者なので、収入源について何度も確認された」(女性60代以上)、LGBTQであれば「個人情報を根掘り葉掘り聞かれた」(女性20代)「ジェンダーの点を開示しないと契約できないような物件があった」(男性20代)などです。
このほか、以下のような心ない対応をされた住宅弱者もいます。
・在日外国人「外国籍のため、大家さんに断られたことがあります。また、日本人の緊急連絡先が必要ということ。いないと必ず断られます」(女性30代)
・LGBTQ「女性同士のカップルはトラブルが多そうという理由で入居を断られた」(女性30代)
・生活困窮層「生活保護者とは契約しないオーナーがいて希望物件を契約できなかった。単身世帯のため、近隣に親族がいる事が前提になる不動産会社があった」(男性60代以上)
・シングルマザー・ファザー「初めて賃貸を探し始めた時、新人営業の方に、家賃はきちんと支払えますか?と失礼なことを聞かれた」(女性40代)
・被災者「詳細を聞かれ嫌な顔をされ、それ以降は嫌々対応された」(女性20代)
・障害者「精神障害者という事で契約が破棄になったり、『精神障害者には貸せる物件が無い』と言われたことがある」(40代男性)
(以上、すべて前述の報道資料より)
あなたもいつか「住宅弱者」になるかもしれない
――こうした住宅弱者に、自分も当てはまってしまう可能性はどれくらいあるのでしょうか。
誰にでも住宅弱者になる可能性がありますよ。わかりやすいのは高齢者です。誰もがいつか年を取って、高齢者になりますから。
ここ数年は物件価格が上昇していることもあり、家を購入しない選択をする人が増えているかもしれません。しかしずっと賃貸住まいの場合、いつか「もう更新できません」「新しく借りられる家はありません」と言われる日が来る可能性があります。また、持ち家に住んでいる方が高齢者になって手頃な家に住み替えようとしたときにも、同じように壁にぶつかるかもしれないです。
今や「人生100年時代」で、お元気な高齢者はたくさんいます。しかし不動産会社やオーナーからすると、孤独死は依然消えないリスクなのです。

写真はイメージです
また、夫婦が離婚する確率は約3分の1といわれ、今結婚している人がシングルマザー・ファザーになる可能性は低くありません。家を購入していたとしても、自分が子どもを連れて出て行ったとき、その先で家を借りられるかは不確実です。
これから外国籍の人と結婚したり、ケガや病気が原因で障害者になったりする可能性もあります。地震大国なので被災者になることも、仕事をやめてフリーランスになることも。あらゆる可能性があります。
――この住宅弱者問題を解決するため、オーナーや不動産会社がやるべきことは何でしょうか。
家を借りたいという人に対して、真剣に向き合うべきだと思います。空室を抱えているオーナーであれば、候補者を故意に狭めてしまうのはもったいないです。収入の安定性で検討するならまだしも、LGBTQに関しては収入とは何も関係がないですよね。
また、例えば「在日外国人によるトラブルがあった」という噂を聞いたとして「だったらうちも在日外国人には貸さないでおこう」と考えるのは、短慮ではないでしょうか。申し込みに来た方と直接対面した上で「この人はトラブルを起こす危険性が高いのか」を考えたらよいと思います。
住み替えや引っ越しは誰にとっても大変ですが、特に高齢者や障害者にとっては労力が大きくかかるため、一度入居したら長く住んでくれる可能性が高く、優良顧客になり得ます。実際に、LGBTQなど住宅弱者への仲介を専門に扱う不動産会社で、当事者のリピーターや紹介が多く、業績がしっかりと伸びている会社もあります。
不動産事業の成長を考えるなら、住宅弱者問題にしっかりと向き合ってみるのもよいのではないでしょうか。
住宅弱者は「周囲の協力」を突破口にしてほしい
――今まさに困っている住宅弱者は、どんな対策を講じればよいのでしょうか。
対策は住宅弱者のジャンルによって異なりますが、不動産会社やオーナーに向けて「信用力を示すこと」が大切です。
例えば高齢者や障害者、生活保護利用者は、周囲に信頼できる人がいることを示すこと。家族がいなかったとしても、地域の居住支援法人やソーシャルワーカーの協力を得て、一緒に不動産会社を訪問するとよいでしょう。在日外国人なら、学校や勤務先の協力を得て家を探すのもひとつの手段です。

LGBTQの方は、全国展開をされている大手の不動産会社に行くのがおすすめです。世の中が、ジェンダーも含めDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を重視する風潮があり、大手企業ほどSDGsやサステイナビリティの観点からLGBTQへの理解や対応が進んでいる傾向があるからです。すでに申込書から性別欄をなくした不動産会社もありますよ。
また、高齢者やひとり親など住宅確保要配慮者に対応する居住支援法人や不動産会社が増えています。家が借りられない現状に一人で立ち向かうのではなく、周囲や理解ある不動産会社を味方につけてほしいです。
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