高齢者でやせ型の人は、やや太目の人よりも6~8年早く死ぬ…東大卒医師が警鐘「長生きしたけりゃダイエットはやめろ!」「70代超えたらタバコをやめるな」学者・官僚の誤った指導に憤りも
高齢者医療の現場で多くの患者を診療してきた和田秀樹さん。高齢者が「幸齢者」として晩年を過ごすために必要な知恵と心掛けを『幸齢者』(プレジデント社)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
『幸齢者』#3
元気に長生きしたければ、ダイエットはおやめなさい
年を重ねると代謝が下がり、体が重くなりがちです。若いころに比べて、体重が増え、日々ダイエットに余念がないという人も少なくないでしょう。でも、それはいわゆる中高年までで十分。極端に太っている人を除けば、高齢者はダイエットをする必要などありません。むしろ健康を損ねます。
なぜ、みんなダイエットに励むのでしょうか。
その要因の一つは、数十年前から盛んにいわれるようになった「メタボを避けろ」というスローガンにあります。「メタボ」とは、メタボリック・シンドロームの略で、内臓脂肪の蓄積によって、肥満症や高血圧、糖尿病などの病気を引き起こしやすくなることを意味します。2008年からは、メタボかどうかを診断する特定健康診査や特定保健指導がスタートしました。
しかし日本のメタボ対策は、高齢者医療の現場をまったく知らない学者や官僚たちが主導した〝誤った施策〟にすぎないのです。まじめにメタボ指導に従ってやせてしまうと、逆に寿命を縮める結果を招いてしまうことを、統計データが示しています。

高齢になっても元気な人は、ふっくらとした人
かつて宮城県で5万人を対象に大規模調査が行われ、その結果、やせ型の人のほうが、やや太目の人よりも6~8年早く死ぬことが明らかになっています。一方で、少々ふっくらとしたタイプの人が、最も長生きをしているということがわかりました。
この調査結果は、私たちの実感とも一致しているのではないでしょうか。身の回りの元気な70代、80代の人は、やせ型というよりは、ふくよかなタイプが多いと思います。
私も長年、高齢者を診てきましたが、やはり高齢になっても元気な人は、ふっくらとした人なのです。そういう人のほうが肌つやもよく、活動的です。
逆にやせている人はしわなどが目立ちます。また、少しやつれた印象を受けます。というのも、栄養が足りないからです。
無理にダイエットに励むことで、サルコペニアやフレイルのリスクも高まってしまいますから、健康にはマイナスなのです。
学者や官僚たちは誤っている
なぜ学者や官僚たちは誤った指導をするのでしょう。答えは簡単です。彼らはアメリカに対して「右に倣(なら)え」をしているだけなのです。
アメリカと日本では死因が大きく異なります。にもかかわらず、死因のトップが虚血性心疾患というアメリカの医学常識を、そのまま日本の施策としているのです。
学者や官僚と違い、現場を知っている医師からは、高齢者がダイエットをする危険性について警鐘を鳴らす声が上がっています。たとえば東京都医師会はホームページで、「『メタボ対策』からフレイル予防へ」というタイトルのもとに、こう訴えています。

「日本人に適した健康法」がある
「高齢期のBMI(体重と身長の関係から人の肥満度を示す自分の体格の指標)は、中年期以前とは異なり、少し高めの方が、栄養状態や総死亡率の統計からみてもちょうど良いことが分かってきました。『メタボ対策』から、しっかり食べて栄養状態を保つ『フレイル予防』に考え直してみましょう」
70代になったら、栄養の不足のほうに気をつけて、摂りすぎについては過敏になる必要はありません。
単に栄養価の問題だけではありません。食べたいものを食べることで、ストレスが軽減されます。幸せホルモンが分泌されます。つまり免疫機能が上がるのです。病気のために食事制限をせざるをえない場合は別として、少なくとも70代になったら、ダイエットなどしてはいけません。
70歳からはたばこをやめる必要はない
やめたい人が一定数いるのに、なかなかやめられない二大嗜好品といえば、たばことアルコールです。年を重ねると、健康のために嗜好品をあきらめる道を選ぶという話を聞きます。たばこやアルコールはその最たるものですが、私は基本的に「70代以降の人はたばこをやめる必要はない」と考えています。
たばこには、がん以外に二つの大きなリスクがあります。
一つは動脈硬化です。喫煙者は非喫煙者に比べると、明らかに心筋梗塞や脳梗塞になりやすい傾向があります。
もう一つのリスクは、肺気腫です。これは、酸素と二酸化炭素を交換する肺胞という機能が破壊される病気です。肺気腫になると呼吸が非常に苦しくなるので、重度のたばこ好きの人でも禁煙するようになるケースが多々あります。
70代未満の人であれば、たばこをやめたほうが人生におけるその後のQOLが上がるので、「本当はやめたほうがいいのです」とアドバイスしたいと思います。ただし、相手が70代以上であれば、話は別です。

65歳を越えると生存率はほぼ変わらない
前述のとおり、過去に浴風会の老人ホームで、喫煙者と非喫煙者の生存曲線を調べたところ、65歳を越えると生存率はほぼ変わらないことが明らかになりました。
なぜこんな現象が起こるのかというと、喫煙によってがんや心筋梗塞になる人は、老人ホームに入る前にすでに亡くなっている可能性が高いからです。ホームに入る時点で何十年もたばこを吸ってきているのに肺がんにも心筋梗塞にもなっていない人は、たばこに強い何らかの因子を持っている可能性が高いのです。
ならば、いまさら節制するより、自身の体の強さを信じ、他人に迷惑をかけない程度に喫煙したほうが、その人自身の人生を楽しく全うできるのではないかと思います。
そのほかにも、たばこを吸うメリットはあります。喫煙者にとっては精神安定効果も高いし、喫煙者同士で強い連帯感が生まれているという側面もあります。
昨今の喫煙者への風当たりは明らかに強すぎる
私はたばこを吸いませんが、昨今の喫煙者への風当たりは明らかに強すぎると感じます。差別といってもいいほどです。
そのようにある種の〝迫害〟を受けている人たちが、喫煙所で日々、連帯感を高め、コミュニケーションを取っています。高齢になってからこそ、このメリットは大切にしたいと考えます。
健康は気になるけれども、たばこはどうしても吸いたいという人は、最近では電子たばこやシーシャ(水たばこ)といった新しい喫煙習慣を選ぶこともできます。その中には、ニコチン・タールが含まれないフレーバーのみを楽しむものや、ビタミンを摂取できるものもあります。過度な期待はできませんが、健康被害のリスクを限りなく抑えたうえで、喫煙習慣を続けることもできるでしょう。
繰り返しになりますが、がまんしすぎない生き方をしたほうが、心身の健康度は高まりますし、幸福感も向上して、結果として長生きできるのです。
『幸齢者 幸せな老後のためのマインドリセット』(プレジデント社)
和田秀樹

2023/6/15
1,210円
208ページ
978-4833440523
2022年オリコン年間本ランキング・作家部門第2位、和田秀樹さん最新刊!
高齢者が共通して「後悔」していることが6つある。
「がまん」をやめれば、「つらい高齢者」は「しあわせな幸齢者」になれる。
高齢医療の専門家が優しく教える、今日からもっとラクに生きるためのコツのコツ。
70歳を超えて楽しく、充実した暮らしを送っている人は、高齢者ではなく“幸”齢者。呼び方を変えれば「超高齢社会・ニッポン」はもっと明るくなる、みんなが笑顔に、心豊かになれる──。
長年医療の現場で高齢者たちを見てきた和田さんは言います。
「いま本当に必要なものは、60歳以降の“マインドリセット”です。つまり、考え方のスイッチです。これをやらなければ、どんなにいい方法を提案しても、現実は何も変わらないということを確信しました」。
そこで本書ではまず、後半生を豊かに楽しく生きることを阻害する数々の「壁」の正体を具体的に明らかにしていきます。そのうえで、固定観念を乗り越えるための「マインドリセット」の方法を優しく語ります。
「日本を、苦労を重ねて人生をまっとうしてきたすべての高齢者が“幸せ”を意味する“幸”齢者と呼ばれる国にしたい」と心から願う老年医療専門家・和田秀樹さんが、高齢者ご本人、また老親のいる現役世代へ贈る、「本当に伝えたかった」メッセージ。
【目次】
序 章 「幸齢者」へのマインドリセットのすすめ
第1章 「お金」へのマインドリセット
第2章 「子ども」へのマインドリセット
第3章 「夫婦」へのマインドリセット
第4章 「医療」「健康」へのマインドリセット
第5章 「生き方」「生活」へのマインドリセット
終 章 マインドリセットカ条
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