SNS上で抜群の知名度を誇るZ李氏。YouTubeを含めた全てのメディアにおいて、彼は一度も顔を出しておらず、その素性は謎に包まれている。
ネットの情報によると、Z李氏は公営ギャンブルの予想オンラインサロン「新宿祖界」のボスであり、保護猫カフェの経営やホームレス支援の炊き出しも行っているようだ。Twitter上での歯に衣着せぬ言動、夜の街のトラブルやイザコザを解決へと導く手腕、派手な交友関係など、型にはまらないアウトローな姿は、まるで昔ながらの任客を彷彿とさせる。
そんなZ李氏は、今年に入ってから歌舞伎町周辺で、大きい猫と見間違うほどの“巨大ネズミ”(尻尾を除いた体長で50センチほど)を度々目撃しているらしい…。それに関するTweetも数回発信してきたという。
そしてその巨大ネズミを捜索・捕獲するための「#歌舞伎町巨大ネズミ捜索隊」がついに始動。捜索隊に参加するアルバイトを募集することが、8/29に彼のTwitter上で告知された。
Twitter上で公開されたその概要は、
・9/1(木)23時半、新宿・職安通り沿いのカラオケ前集合
・翌日の始発頃まで捜索
・参加者には日当1万円(先着30名限定)を支給
・巨大ネズミを写真に捉えた者には3万円、動画であれば5万円の報酬を支給
・捕獲した者にはサイズに応じて20〜50万円の報酬を支給
というもの。
報酬額の高さや「謎の巨大ネズミを歌舞伎町で見つけ出す」というロマン溢れる目的から、この捜索作戦はTwitter上で瞬く間に注目を集めた。
筆者も他のTwitter民と同じように好奇心を刺激され、気付けば夜の歌舞伎町へと足を運んでいた。
はたして、巨大ネズミは本当に歌舞伎町に存在しているのか? その姿を発見、捕獲する猛者は現れるのか?
当日のリアルな様子をお伝えする。

謎の巨大ネズミを捕獲せよ! Z季の「#歌舞伎町巨大ネズミ捜索隊」に参戦してみた!
9/1日(木)、新宿・歌舞伎町。その日、近隣で度々目撃されているという“巨大ネズミ”の大捜索作戦が開催された。発起人は、SNS上で絶大な影響力を持つ「Z李」氏。はたして謎の巨大ネズミは現れるのか? ライター・佐藤麻水が自ら、捜索隊に参加した。トップ画像/深夜のゴールデン街
#歌舞伎町巨大ネズミ捜索隊
9/1(木)PM23:00、新宿職安通りのカラオケ前に集合
冷やかし・配信系の参加は認めない
22時半前、東新宿駅に到着し、職安通り沿いの集合場所へと向かう。
その時点で既に「参加者が集まり過ぎて警察が来ている」という情報がTwitter上に出ており、「参加者の締め切り時間を早めるかも」という運営側のTweetも流れてきていた。
恐るべきZ李氏の影響力である。
集合場所付近に近づくと、歩道に並ぶ長蛇の列が見える。急いで最後尾まで歩くと、少なくとも自分の前には50人以上が並んでおり、日当が配布されるという先着30名には残念ながら入れなかった。

捜索開始前の長蛇の列
当初「最初の集合にZ李氏が現れるのではないか?」と少しだけ期待していたものの、それらしき人物の姿は見えず、彼の部下だと思われるスタッフの方々がこの捜索隊を取り仕切っているようだった。
参加者たちの外見をチェックしてみると、大きな虫取り網を手に持った者や、ネズミを撮影するためのビデオカメラを装備しているグループ、ミッキーマウスのような全身コスプレをしている者など、それぞれの「戦闘服」に身を包んでいる。
Z李氏が事前に「冷やかし・配信系の参加は認めない」という旨のTweetをしていた効果もあるのだろうか。大半は、おふざけ気分ではなく本気で臨んでいることが、その表情や格好から見て窺えた。
普段あまり人通りがなさそうな道に、謎のやる気に満ちた人々が大挙していた。
夜の歌舞伎町に解き放たれる捜索隊
列に並び待つこと約30分。
運営側のスタッフが突然「これで日当の受付は終了です! 漏れた人もオープンチャットには入れます。これから捜索開始です!」と大きな声で発表した。
先着30名から漏れても、捜索隊の間で共有されるという“LINEのオープンチャット”の情報は貰える。〈巨大ネズミを発見できれば報酬を獲得できる〉ということだろう。
その掛け声により参加者の列は一瞬にして崩れた。日当をもらえないと知り、帰っていく者もいた。
急いで前方の運営スタッフの元に行き、スマホ画面に表示されているLINEのオープンチャットのQRコードを読み取った。
捜索隊が見つけたネズミの画像・動画をオープンチャットに貼り付け、それを「目星の巨大ネズミ」と運営側が認定すれば報酬が貰える、というルールだ。
早速「歌舞伎町巨大ネズミ捜索隊」と銘打たれたオープンチャットに入る。
なんと、その時点で150人近い参加者が入室済みで、トーク画面上は既に捜索を開始している人たちが撮影したネズミの写真・動画で既に溢れ始めていた。オープンチャットの人数はどんどんと増えていく。

オープンチャットの様子
筆者も足早に歌舞伎町の方へと歩き始め、捜索を開始した。
捜索する上で筆者がひそかに危惧していたのは、野生のネズミに噛まれでもしたら、破傷風か何かの悪いウイルスに感染してしまうのでは?ということだ。
そんな心配の声が運営側に伝わったのか、方針変更のお知らせがオープンチャットに届いた。
「発見しても捕獲は禁止。あくまでも写真・動画に限る」というルールに変更された。捜索隊が病院送りになるのは、責任問題として、運営側も避けたいのだろう。とにかくネズミと格闘する必要がなくなり、筆者は少しだけ胸を撫で下ろした。
周りを見ると、ハンディライトで道路の隅を照らしながら歩いている人や、長い棒で道端の草むらを突きながら探している人もいる。中には自転車に乗りながら、仲間と連絡を取り合い、ハイスピードで捜索を展開している人もいた。

虫取り網でネズミを探す捜索隊員
巨大ネズミへの過酷な道のり
捜索開始から約2時間が経過し、時刻は深夜1時を迎えた。時間が経過するにつれ、街に出現するネズミの数もどんどんと増えてきた。もはや探さずとも、足元に視線を移せば至る所でネズミが移動しているのが見える。
それに比例して、捜索開始の頃よりも大きいサイズのネズミが出現し始めているようにも感じる。オープンチャット上でも、他の捜索隊が貼り付ける動画に映るネズミのサイズが明らかに大きくなっている。中には電線の上を歩くハクビシンを写真に収めた人もいた。
しかしながら、運営側から「目星の巨大ネズミを発見した」と認定された者はまだ誰もいなかった。
怒涛の勢いで更新されていたオープンチャットも、深夜3時を超えると少し落ち着き始めた。なおかつ、一種の“一体感”が生まれ始めたことに気が付いた。
「バッティングセンター辺りのゴミ捨て場にかなり大きなサイズのネズミが沢山いる」
「一番街の焼肉屋の前でもデカいネズミ発見」
「地下駐車場が怪しい」
それまでは各々が一攫千金を狙い、撮影した写真や動画を自慢げに一方的に送ることが多かった。しかし時間が経つにつれ、大きな個体のネズミが出た場所や、巨大ネズミが姿を現しそうな怪しい場所の共有が頻繁に行われ始めたのだ。
体力の消耗が激しかったからなのか、50センチ越えの巨大ネズミを発見することの難しさをそれぞれが痛感し始めたからのか。いずれにせよ、誰に指図されたわけでもなく「個人の成功」よりも「集団としての成功」に参加者の意識が向かい始めたのは確かだった。
もはや共通の任務を持つ一つの大きな集団、その名の通り“巨大ネズミ捜索隊”である。筆者たちは連帯感を強めた。
午前3時43分、運営側のスタッフから「日当を支払った方の点呼を取るため、カラオケ前に集合して下さい。また、捜索隊全員で集合写真を撮りたいので、4:10頃にゴジラ横の広場に集合して下さい」という知らせがオープンチャットで届いた。
タイムリミットが差し迫る。みんな最後の力を振り絞り、捜索のラストスパートに奮闘する。筆者も他の捜索隊の方々の姿から勇気をもらい、怪しそうなポイントをどんどん探していく。
他の隊員たちがオープンチャットに添付する写真・動画の中にはすでに、30センチは優に超えるのではないだろうかという、普通の生活ではまずお目にかかれないサイズのネズミが沢山いた。
だが、Z李氏が目撃したという大きな猫サイズの、50センチを超える巨大ネズミには、どの隊員もいまだ出会えていなかった。

標準よりは大きなサイズのネズミ
時刻は午前4時。捜索終了だ。
筆者はヘトヘトになりながら、ゴジラ横の広場へと辿り着いた。他の隊員も集まってきて、最終的には50人を超える大所帯になった。
集合写真を撮り、運営スタッフが労いの声を掛ける。目的の巨大ネズミは発見できなかったが、それに準ずるサイズのネズミを発見したものには、後日別途ボーナスを支払う可能性もあるという。
「目星の巨大ネズミは発見できませんでしたが、良い経験になりました!」
「楽しかったです! また機会があれば参加します!」
「次はいつですか?笑」
と、隊員たちから元気な声が発せられる。みんな充実した顔をしているように見えた。巨大ネズミ発見という目的は果たせなかったが、間違いなく筆者たちは一つのチームとして、ゴールを目指して戦ったのだ。たとえ今日限りの関係だったとしても、束の間の同志と呼べる仲間が沢山できたのは疑いのない事実だ。
夏の終わりに、青春のようなひと時を過ごせたことに感謝したい。次こそは筆者たち捜索隊が、幻の巨大ネズミを必ず発見してみせる。

最後の集合写真時の様子
※発起人のZ李氏から、本記事の記事化及び掲載の許可を頂いた上で掲載しています。
取材・文・撮影/佐藤麻水
新着記事

松田青子さん(作家)が、チョン・ソヨンさん(SF作家)に会いに行く【前編】

松田青子さん(作家)が、チョン・ソヨンさん(SF作家)に会いに行く【後編】

【漫画あり】大ヒット縦スク漫画『氷の城壁』が待望の単行本化! ブレイク作家・阿賀沢紅茶が語る「ウェブトゥーンと紙の漫画」の違いと面白さ
「マーガレット・別冊マーガレット60周年」特別インタビュー#6(前編)

【漫画あり】《マンガ大賞2023第3位》話題沸騰の青春ラブコメ『正反対な君と僕』の阿賀沢紅茶「きれいなだけの恋愛漫画が刺さらなくなってきた」
「マーガレット・別冊マーガレット60周年」特別インタビュー#6(後編)
フジテレビ渡邊渚アナの友情と恋愛と結婚観。「友達いなさそうと言われるけど、3人もいると伝えたい」「結婚するなら相手を養いたい」
フジテレビアナウンサー渡邊渚エッセイ 「カタツムリになりたくない」 vol.6
