『クズとブスとゲス』の奥田監督が殴られて、騙されて、裏切られて585万円の借金をしても映画を撮り続ける理由《ラッパー・呂布カルマ×映画監督・奥田庸介 後編》
映画監督とラッパー。表現もキャラクターも違うが、どこか根底に共通したものを感じる二人、奥田庸介と呂布カルマ。映画『青春墓場』で共演した二人の対談を公開する。(前後編の後編)
媚びるか死ぬか#2
周りが清濁あわせのみながら大人になっていく中で…
――奥田監督の映画って大衆ウケとか、今っぽいとか、社会の価値感に合わせて作るみたいなものを感じなくて、嘘がないですよね。

ラッパー・呂布カルマ(奥)と映画監督・奥田庸介(手前)
奥田 やっぱり嘘くさいのが嫌いなんですよ。みんな本音をのみこんで、清濁あわせのみながら社会に順応して生きているわけなんですけど、自分はそれを拒否して今に至るので、やっぱり映画にも反映されると思いますね。
――呂布さんはアンダーグラウンドで活動しながら、最近ではACジャパンのCMをはじめテレビにも出たりしています。そういうところは、どう折り合いをつけているんですか?

ACジャパンのCM「寛容ラップ」
呂布 僕は創作とテレビに出ることとは完全に分けているので、そこはあんまり関係ないですね。あと、テレビでも素のままでいけたんで、それはめちゃくちゃラッキーでした。
奥田 昔、映画の撮影中に顔面騎乗位の話とかしてたじゃないですか。髭を剃るときは顔騎をするときっていう話を聞いて、呂布さんがテレビに出てると……。
呂布 髭の有無を……。
奥田 はい。あっ、これは顔騎をしたのかなって……。
呂布 いや、それはもうだいぶ若い頃の話なんで(笑)。全然関係ないですけど、歳をとったせいか髭がずっと硬くて、クンニをするとしても邪魔だし、これ何なんだろうと思ってたんです。で、最近知ったんですけど、髭って頭髪よりも爪の成分に近いらしいですね。
奥田 そうなんですね。
呂布 それを聞いて、女の子と遊ぶ前に爪を短く切るっていうのと、顔に座ってもらう前に髭を剃るっていうのはイコールなんだなって。なんか自分の中で腑に落ちたんですけど、これは書かないでほしいです。
サドでマゾな奥田監督の撮影
――それは絶対に書きますけど、一旦話をもどします。いろんな大変な目に遭っても奥田監督が映画を撮り続けるのはどうしてですか?

映画『クズとブスとゲス』 Amazon Primeなどで配信中 ©2015映画蛮族
奥田 普通に生きてても、なんかつまんないんですよ。普通の人は平穏な日常も楽しめるけど、やっぱり私は人生何かに懸ける瞬間みたいな、スリルを欲してるんですよね。
呂布 今回、奥田監督の撮影に参加させてもらって、映画ってすごくたくさんの人が関わってるんですよね。監督が全員を使って指示を出して作るっていう、あの感覚ってなかなかないと思います。
自分が形にしたいものを、ある意味全員に押し付けるっていう。あそこまでエゴイスティックな行為って他にちょっと思いつかない。それを経験しちゃうと、いろんなことがくだらなく感じてしまうでしょうね。
奥田 映画を作ってハマった人は、やっぱりまた映画をやりたがるんですよね。戦場に行って、家族の元にもどっても、やっぱりまた戦場に行っちゃう映画『ハート・ロッカー』みたいな。
呂布 奥田監督の現場は特にそうだと思うんですけど、あまりに監督次第な部分がありすぎて。めっちゃ大変だし、僕は絶対ムリだって思いました。
奥田 逆にラッパーは1人でやるということの苦労はありますよね。
呂布 人を巻き込まないので、何とでもなるというか。映画は強い責任感や覚悟がないとできないと思います。それはやっぱり誰にでもできることじゃないし、それをやりたいと思うことさえ、なかなかないですよね。すごくサディスティックな部分とマゾヒスティックな部分の両方がないと厳しいですね。
奥田 変態なんですよ。
呂布 特に監督の作り方は変態だと思います。
奥田 映画監督って立場的にみんなが言うことを聞いてくれるじゃないすか。で、どこかでタガが外れて勘違いして、欲望のままに突き進んじゃう弱い人もたくさんいます。でも、そこをちゃんと自制していないと、おかしくなっちゃう。監督業ってどっかでぶっ壊れてくるんだと思います。今回の映画『青春墓場』もほぼ自主。私の借金ですから

©2023映画「青春墓場」
――借金額は?
奥田 585万円。実際、借金になって自分に降りかかると、かなり喰らいます。
呂布 出資してくれるはずだった方が途中で抜けちゃったんですよね?
奥田 そうです。オレが生意気だって、もう飛ばしようがない(製作中止しようがない)状態に来てるのに飛んじゃって。BreakingDownみたいに男の子同士がバチバチ喧嘩するっていう素直な揉めごとではないんですよね。もっと大人がずる賢いことを考えて、騙したり、騙されたり。全然、邦画界はクリーンじゃないですよ。
映画業界はゴマスリ or DEAD!
――そういう業界で生き残っていくには、何が大事なんですか?

奥田 ゴマスリじゃないですかね。私はもう虫の息なんで(笑)。
呂布 バランス難しいですよね、王様みたいになっちゃって勘違いしてもアウトだし。
奥田 もし私が大衆の注目を引ける部分があるとしたら、自分ほど邦画の闇を通ってきた男はいないってことじゃないですかね。暴力に、横領に、詐欺に、裏切り…ひととおり経験してきました。書けないでしょうけど。
呂布 映画にしたら書けそうですね。
奥田 殺されちゃいますよ。「これ俺のことか?」みたいな(笑)。でも、今は自分のスタイルがしっかりあって、それをなんでもかんでもポリコレ【3】に合わせてやれとか言われて撮るくらいだったら、もう撮らないでバイトした方が100倍マシです。
【3】「特定のグループに対して差別的な意味や誤解を含まぬよう、政治的・社会的に公正で中立的な表現をする「ポリティカル・コレクトネス(Political Correctness)」の略称

――やっぱり奥田監督に映画を撮ってほしいなと思っていますよ。
奥田 私は自分の運命に憤ってるわけですよ。なんでこんな人生なんだっていう。つまずいてつまずいて、何も成功を遂げてこなかったことを思ったときに、やっぱり運命って実態がないから苦しくて……。
自分の体を傷つけてみたり、そこら辺のヤツと喧嘩してみたり、睡眠薬にどっぷり浸かってみたり、そういうことで何か自分の運命に盾突いているつもりだったのかなとか思うときもあります。
呂布 睡眠薬に限らず、破滅型っていうか……何とでもなれっていう時期はもう抜けた感覚ですか?
奥田 全然抜けてないですよ。今はもう睡眠薬も飲んでなくて、以前ほどの破滅型ではないです。でも、あのときから救われたかっていうと、全然救われてない。やっぱり次、もし次に映画が撮れるんだったら、その映画で死んでもいいやぐらいの気持ちはあります。
取材・文/荒川イギータ 撮影/高木陽春
映画「青春墓場」絶賛公開中
2023年9月1日から東京・下北沢シモキタ-エキマエ-シネマ「K2」で東京再上映

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