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指標によって結果が違う

日本と韓国の豊かさが接近している。OECDのデータによれば、2020年の平均賃金は、日本が3万8514ドル、韓国が4万1960ドルで、韓国のほうが高い(購買力平価)。

しかし、国民1人当たりGDPでは、日本4万88ドル、韓国3万1638ドルで、日本のほうが高い(市場為替レートでの評価。データはIMFによる)。

賃金と1人当たりGDPは、似たものではあるが、実は違う内容のものである。そのため、どちらを見るかによって結果が違うのだ。

これまでは、経済的な豊かさを表すどのような指標でも、日本は韓国より高かった。しかし、韓国の成長率が高いので、ほぼ同じような水準になってきた。このため、どの指標を見るかによって結果が変わるようになってきた。では、日本と韓国の一体どちらが豊かなのか?

日本と韓国、どちらが豊かなのかの最終結論…平均賃金は韓国のほうが上であるという明確な事実をどうとらえるか_1
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生産性が高く少数精鋭なら、
1人当たりGDPは低い場合がある

この問題を検討する手がかりは、「生産性」の数字にある。これは、GDPを就業者数で割ったものだ。OECDの資料で生産性を見ると、韓国が日本より高くなっている。

GDPと賃金支払総額は、異なるものだ。まず、GDPの中には、賃金に分配されるもの以外に、営業所得などがある。さらに、誰の所得にもならない「固定資本減耗」という項目がある。これらがどのくらいの比率かによって、GDPが同じでも賃金支払総額は異なる。

しかし、生産性と1人当たりGDPでは、どちらも分子はGDPで同じだ。違いは分母だけである。1人当たりGDPでは人口数、それに対して「生産性」では就業者数が分母になっている。

国民全体の中でより少ない比率の人がより高い賃金で働けば、人口1人当たりのGDPが少なくなることがある。数値例を示そう。

J国とK国があるとしよう。人口はいずれも10人。

J国では就業者1人当たりの付加価値は20とする。付加価値の半分が賃金に分配されるとすれば、就業者1人当たりの賃金は10になる。

K国では、就業者1人当たりの付加価値は26、賃金は13だとする(これらは、同一の通貨、例えばドルで表示された額とする)。

J国では、10人全員が働くとすると、GDPは20×10=200であり、1人当たりGDPは20だ。これに対して、K国では、10人のうち7人だけが働くとする。GDPの総額は、26×7=182、国民1人当たりGDPは18.2だ。

この場合には、賃金が高いK国のほうが、1人当たりGDPが低くなる。つまり、K国は、「高い生産性の人が少数精鋭で働いている国」だということになる。就業者1人当たりの付加価値が多いという意味で「高生産性」であり、人口のうち就業者の比率が低いという意味で「少数精鋭」なのである。