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日本  豊かな国でどう死ぬか

現在、日本で起きている孤独死は、毎年三万件と推計されている。

一時代前まで、孤独死には高齢の独居者がアパートで人知れず亡くなるイメージがあった。だが、最近は少し様相が違ってきている。東京では孤独死の件数は増加の一途をたどっており、二〇二〇年の統計では二三区だけで年間四二〇〇人を数えている。だが、図表27を見てみると、四十歳くらいから徐々に増えてきて、六十代でピークを迎えているのがわかるだろう。必ずしも高齢者だけではなくなっているのだ。

【年間3万人の孤独死】世界第3位のGDPを誇りながら、世界ワースト4位の相対的貧困国である日本の実相_1
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孤独死は、貧困と無縁ではない。私は以前、孤独死保険の取材をしたことがある。あらかじめ孤独死が起きそうな物件に保険をかけておいて、孤独死が起きたらその保険によって傷んだ遺体の撤去から部屋の特殊清掃までを賄(まかな)うのだ。

特殊清掃会社の社長は次のように話していた。

「高齢者の孤独死は、お金があってもなくても起こります。しかし、中年以下の孤独死の場合は、八割以上は経済的に困っていただろうと思われる方ですね。ワンルームのアパートで、家具もほとんどなく、冷蔵庫も空同然で、おそらくは正社員として働いていなかったんだろうなという方です。現役世代の場合は、普通は社会につながっていたり、定期的に連絡を取る人がいたりするので、自宅で突然死したところで何週間も発見されないということが起きにくいんです。そうなるということは、その人が社会との接点がなかったということなのです」

彼は遺族に聞いたという事例を教えてくれた。

【ある若者の孤独死】
将也は、三十代半ばの男性だ。彼は高校を中退してから、関西から東京に居を移して一人暮らしをしてきた。最初は水道関係の会社で正社員として肉体労働をしていたのだが、三十代になってまもなく膝の怪我をして会社を辞めて以来、いくつかの日雇いの仕事を転々とするようになった。
関西出身だったので、将也には都内に信頼できる人間がいなかった。また仕事場もコロコロと変えていたため、プライベートを一緒に過ごす知人もいなかった。
将也は独り身の寂しさを紛らわすためか、かなり酒を飲んでいたようだった。おそらくそれが祟(たた)って脳梗塞か心筋梗塞を起こしたのだろう、トイレで倒れたきり、誰に気づかれることもなく死亡した。
彼の死が発覚したきっかけは、遺体が腐敗して悪臭が漂いはじめたことだった。鍵が閉まっている部屋から臭いがするということで、保証人に連絡が入ったのである。それで確認のために入ってみると、トイレに遺体があった、腐敗して原形を留めていなかったという。