同じところにとどまっていては人の胸は打てない

「ここが時代のボーダーライン」断ち切るものに向き合う時期が来ている――斎藤工が映画『イチケイのカラス』で向き合う時代の光と闇_3

――月本が抱える過去の経験や心の傷が、彼の色気につながっていると感じました。斎藤さんは魅力のひとつに色気をあげられることが多いですが、ストレートなエロスを求められる役ではなくても、こうした人間の業や痛みの繊細な表現がエロスとして伝わっていると思います。斎藤さん自身、今まで重ねてきた葛藤や痛みによって、表現者としての魅力が生まれている実感はありますか?

どうですかね……ただ、自分が役者さんや作品を見るときに、同じフェーズにずっといるんだろうなという人の表現には正直、胸を打たれないんですよね。「こういうことをしそう」という範疇を超えないと観る人の心を揺さぶらないというのは、いち観客として思うんです。

俳優としてひとつ安定したイメージを得られると、それを求めてくださる方もいるし、同じところにとどまってしまいそうになるけど、それしか産出できない状態で人を感動させられると僕は思わないので。そうなるとただ年齢を重ねていくだけで、蓄積があるように見えても、それは幻なんですよね。

膜を破ることに果敢に挑戦し続ける方の表現は、過去の蓄積を捨てることで生まれていて。今おっしゃったような、僕がいただいてるイメージの上に何かを表現するという方法もひとつあると思うんですけど、僕はまだそれを超えられないところにいるな、という気持ちもあるんです。それを超える瞬間を自分の表現に常に突きつけていたくて、いろいろなことに挑戦していますね。