洗練を求めて。「アーティスト」がアニソンを歌う時代へ
2022年末の『NHK 紅白歌合戦』には、映画『ONE PIECE FILM RED』のキャラクターである「ウタ」、そして『劇場版 呪術廻戦 0』の主題歌とEDテーマを手がけた「King Gnu」、『SPY×FAMILY』のOPテーマを担当した「Official髭男dism」が出演者に名を連ねた。
また、2022年のBillboard JAPAN HOT 100の年間ランキング第1位は『鬼滅の刃』主題歌であるAimerの「残響散歌」であり、トップ10内の4曲がアニメ主題歌という結果となったのである。
かつてアニソンといえば、アニメや特撮ヒーローを専門に歌う歌手による、音楽業界からすれば“亜流”のジャンルだったものだが、今やアニソンこそが日本の音楽の主流ではないだろうかと思えるほどの勢いだ。
しかし、一朝一夕でこの状況が生まれたわけではない。そこには約60年に及ぶ道のりがある。
1963年に日本のTVアニメ最初期作品の一つ『鉄腕アトム』の放送が始まり、詩人・谷川俊太郎がその主題歌「鉄腕アトム」に歌詞をつけて以降、アニソンといえば子どもたちが覚えやすいメロディーと主人公や必殺技の名前を歌詞に乗せた楽曲がほとんどだった。惜しまれながら昨年末に逝去した水木一郎氏が歌った『マジンガーZ』の主題歌「マジンガーZ」もその好例だろう。
しかし、時代を経るごとに「アニメ=子ども向け」という認識が薄れ始め、アニメソングも「脱・子ども向け」「より一般的な内容へ」という方向性へと進んでいったのである。
その象徴的な例が、シティ・ポップを代表するミュージシャン・杏里による1983年放送開始『キャッツ♡アイ』の主題歌「CAT'S EYE」、そして小室哲哉が在籍したグループTM NETWORK による1987年放送開始『シティーハンター』の主題歌「Get Wild」だ。
そして、そんな流れにさらに続くように、1990年代には93年放送開始『SLAM DUNK』、96年放送開始『名探偵コナン』の主題歌をほぼ一手にビーイング所属アーティストが手がけて大ヒットを連発。
同96年放送開始『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』もまた、ソニー・ミュージックエンタテインメント所属のアーティストが中心となって主題歌を手がける、ブレイクの登竜門枠となった。
こうして古きよきアニソンの時代を経て、現在につながるJ-POPとアニメの関係性の道筋が構築されていったのである。だが、その先に待っていたのは「CDバブル崩壊」だった。