『22世紀の民主主義』成田悠輔著|その手があったか! クリエイティブ発想の新教科書【BOOKレビュー 未知への扉|嶋 浩一郎】_1
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その手があったか! 
クリエイティブ発想の新教科書

 日本で格差社会なんて言葉が頻繁に使われるようになったのはいつからだろう? 成田さんの見立てでは、資本主義は人々の欲望を最大限に引き出す仕組みなので、放っておけば格差はどんどん拡大するという。フランスの経済学者ピケティも、この本のタイトルの元ネタだと思われる「21世紀の資本」で、労働よりも資本が利益を生み出す時代になってしまったと書いていた。そんな資本主義の暴走を食い止め、富の再分配を促す役割を期待されていたのが民主主義ということになるのだけど、その民主主義がこの30年の間に機能不全に陥っている。おい、どうした民主主義! という状況設定から本書はスタートする。どうすれば民主主義を再生できるのか? 「闘争」、「逃走」、「構想」という切り口で様々なアイデアが先行事例と共に提示される。

 そのひとつひとつのアイデアが「なるほど、その手があったか!」と唸ってしまうくらいにクリエイティビティに満ちている。政治の本を読んでいるという感覚より、まるで、スタートアップの経営者のイノベーションに関する講演を聞いているような読後感。

 著者はちょくちょく「私は政治の専門家ではない」と断り書きを入れているんだけれど、そのある意味無責任な第三者の立場で、全く忖度なく今の政治をいじっているところがいい。目的達成のために

 成田さんの専門でもあるデータとアルゴリズムを選挙のかわりに用いて社会の合意形成を作るという大胆な提案から、大臣の報酬を成果連動型に、なんてすぐにでも採用したい案まで、思考実験の振れ幅も広く、その自由な発想に振り回されるのが心地いい。シンガポールでは経済担当相の給料はGDPと連動しているなど、多数紹介される事例にもへぇーと感心してしまう。この本は、クリエイティブな発想術の新たな教科書だ。

BOOK
『22世紀の民主主義』
成田悠輔著
SBクリエイティブ ¥990

丸と四角のメガネで知られるイェール大学助教授・成田悠輔はデータとアルゴリズムの研究者。テレビ出演やコラム執筆などスラッシャー的にマルチタスクをこなす学者が民主主義の再構築を考察する本書を上梓。若者が今の選挙で投票を続けても世の中は変わらないというドライな状況認識に対し、様々なデータ、哲学・歴史などの知識を駆使し、選挙にかわる合意形成の手法を提示している。

Photo:Kenta Sato

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