家族を一番ミニマムな社会に置き換える
――映画では、部長と若手社員の世代間の断絶を描いているように見えますが、難局を乗り越えるために一致団結する、意外にも感動的な展開が待ち受けています。マキタさんは、人との断絶を生まないために、心がけていることはありますか?
僕は放っておくと断絶しようとするタイプなんです。元々、芸人としては漫才をやりたかったし、音楽ではバンドを組みたかった。でも若かりし頃は両方うまくいかなかったんですよ。漫才の新たな相方を探すとか、バンドメンバーを探すということよりも、僕ひとりでいることを選びました。そのほうが楽だから。
でもやっぱりある程度、社会にコミットするためには、他者に貢献しないといけないということは、家族を持ってからリアルに感じるようになりました。家族をバンドや劇団だと思えば、その場に対する頭や身体の使い方は違ってきますよね。
家族を一番ミニマムな社会に置き換えて、どう貢献できるかは考えるようにしています。断絶しがちな脳みそだからこそ、そうならないことに意識的なんだと思います。
――具体的には、どんな貢献をされていますか?
家族で旅行をしたり、結婚記念日を忘れないこととかですかね。家族だとどうしても甘えてしまうけど、所詮、他人同士の集まりですから。いくらでも関係性がひっくり返る可能性はあるという意識を持っています。家族の存在は、僕にとって明らかにいい変化をもたらしたと思います。
――普段、娘さんから辛辣なことを言われることも多いようですが、逆にかけられてうれしかった言葉は?
長女が通っていた学校の行事に参加したことがあったんです。そしたら彼女がいないところで学校の先生から、僕のことを尊敬しているようだと聞きました。僕の前では基本的に悪態をついていますけど、うれしかったですね。
というのも、その先生が、僕の出演するテレビ番組をよく見てくれていたんですって。で、「君のパパは音楽をこういう角度で紹介していて、すごく面白くてためになるんだよ。君のパパはすごいんだよ」と娘に言ってくれたらしいんです。
そしたら「でしょ。私もパパをすごいと思ってるもん」と……。
その日は、強くて高めのウイスキーをゆっくり、舐めるようにいただきました(笑)。
――『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』がSNSで話題になっていることを教えてくれたのも、娘さんだそうですね?
「パパ、話題の映画に出るんでしょ」と言ってましたね。長女は今、大学生なんですが、学校で映画史的なものを勉強しているらしいんです。感性が育ち始めている中で、この映画の情報を見たと思うのですが、それはうれしかったですね。
最近は「パパのおすすめの映画ある?」と聞かれました。学校で『市民ケーン』(1941)を見たらしく、「死ぬほど退屈だった」と言っていて(笑)。
確かに、20歳の女の子がいきなり『市民ケーン』を見るのはキツいだろうなと思って。いくつか思いついた映画を教えました。そしたら「買って〜」なんて、急に甘えられましたけど。
――おすすめした作品とは?
黒澤明監督の『七人の侍』(1954)、北野武監督の『ソナチネ』(1993)、ブライアン・シンガー監督の『ユージュアル・サスペクツ』(1995)。
あとはジャック・ベッケル監督の『穴』(1960)、ジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』(1960)、ルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』(1958)あたりをすすめました。
――ますます尊敬されそうですね。
僕は恵まれていると思います。でもそれは、一朝一夕でできたものではない。貢献もしてきたし、普段、辛辣な言葉を浴びていますから(笑)。
取材・文/松山梢 撮影/MISUMI ヘア&メイク/永瀬多壱(VANITÉS) スタイリスト/小林洋治郎(Yolken)
ジャケット/¥44,000/FACTOTUM/Sian PR、シャツ/¥5,500/remember/Sian PR、ベレー帽/¥13,200/MAISON Birth/Sian PR
『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022)上映時間:1時間22分/日本
小さな広告代理店に勤める吉川朱海(円井わん)は、ある月曜日の朝、後輩2人組から、自分たちが同じ1週間を何度も繰り返していることを知らされる。他の社員たちも次々とタイムループに気づいていくが、脱出の鍵を握る永久部長(マキタスポーツ)だけが、いつまで経っても気づいてくれない。どうにか部長に気づかせてタイムループから抜け出すべく、社員たちの悪戦苦闘の日々が始まる……。
10月14日(金)より東京・大阪・名古屋で先行公開 10月28日(金)より全国順次公開
配給:PARCO
©CHOCOLATE Inc.
公式サイト
https://mondays-cinema.com
マキタスポーツ
1970年1月25日生まれ、山梨県出身。芸人、ミュージシャン、俳優、文筆家。主な出演作は映画『苦役列車』(2012)『みんな!エスパーだよ!』(2015)『闇金ウシジマくん』シリーズ、『劇場版 きのう何食べた?』(2021)など。